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ヒーローがいない世界  作者: 坂田リン
第1章:一人目
7/21

心配



「なんでいるの?」

「ハルキが教えてくれた。ここの場所」

「いや教えたけど」


来ると思わないじゃん。まさかの緊急事態発生。やっぱりつまんなくて抜け出して来たか? それとも何かトラブルか? うーむ、ますますめんどうになってきたな。


「どうして来たんだ? 何か問題でも起きた?」

「大問題だ。1回学校にも行ってみたけど、ハルキはもういなかった。おかげでここにも足を運ぶことになってしまった」

「学校行ったんだ」


多分下校した後だな。学校どうやって行ったのか……いや魔術ならどうとでもできるか。引き返さなかったのか。そうまでして俺に助けを求めてきたことって一体なんだ? 聞くのが怖くなってきやがったぜ。


「で、問題というのは?」

「アメイジングスパイダーマン3はどうやったら見れる?」


へ?


「は?」

「面白すぎるぞ! 映画という物を初めて見たけど、なんだあの素晴らしい娯楽は!? 特にハルキがお勧めしたあの映画は素晴らしかった! 特に2の方が! 蜘蛛の糸で都市を駆け回るあれは誠に真実か!? ウェブシューターは作れるのか!? トカゲの肉体変異は魔術ではないのか!? 続きがありそうな終わり方だったが3がどこを探しても見当たらなかった! どこで見れるのか教えてほしい!」

「ちょちょちょステイステイ」


大声にもほどがある。周りの視線が集まっちゃったじゃないか。


「一旦声量落とそうか。ここ店の中だから」

「ごめん。気持ちを抑えられなかった」

「そんな面白かった?」

「もちろん! 特にスパイダーマンとエレクトロの戦いがカッコよかった! 魔術も使わずに稲妻(ライトニング)を全身に纏わせることなんてできるのか? 最初は戸惑ったけど、あの小さな板にまるでこの世界と同じような異世界が広がっているなんて、どういう仕組みなの?」


なんだこの状況は? 映画を初めて見た異世界人が面白さに興奮している。そんなのラノベの展開であったっけ? ていうか続き見たくて俺のとこまで来たの? マジで?


「……ぷっ、あっはははははは!」

「ハルキ?」


いかんいかん、店の中だってのに笑いが止まらない。反応が新鮮過ぎる。まるで過去の自分を見ているようだった。しかしここまで感情を露わにしてくれたのなら、教えた甲斐があったな。


「なんで笑ってる?」

「いや、ごめんごめん。面白くてさ」

「私の顔が?」

「違うよ。ここじゃ目立ち過ぎる。飯とか食べた?」

「あー……」


その瞬間、ぐう〜っと誰かさんの腹の虫が盛大に鳴り響いた。グウェンが少し恥ずかしそうにお腹を抑えるが時すでに遅し。また笑ってしまいそうになった。


「とりあえず今日はここで食べてきなよ。俺が作るわけじゃないけど」

「春喜くん?」


背中に声が届いた。案の定先輩の声だった。ん? なんだ? 振り向いたら先輩の顔に汗がダラダラと流れている。そんな暑いかここ?


「そ、その人は?」

「え、あ、ああ。この子ですか?」


そうだった。先輩はグウェンのことを何も知らないんだ。よし、適当に誤魔化そう。


「俺の従姉妹いとこです。最近こっちに来てるんですよ」


細かい事情とかはノリで乗り越えよう。


「何言ってるのハルキ? 私は────」


話をややこしくするな! すぐにグウェンに詰め寄って口元に人差し指を立てて小声で伝える。


「今は俺に従ってくれ。そしたらアメスパのこと教えるから」

「アメスパ?」

「略称だよ」

「な、仲良いんだね」

「そうですか?」


まだ会ってから1日しか経ってないんだけど。変な事言う前にさっさと退散しよう。


「またライバルが増えちゃったな……」

「先輩、この子腹が減ってるみたいなんで、空いてる席に案内しますね」

「え、あちょっと!」


先輩は付いてきそうだったが、他の客に話しかけられてそっちに行った。ふう、危ない所だった。不意打ちは勘弁してほしい。


「それでハルキ、アメスパの3はどこにある?」

「略称覚えるの早いな。とりあえず座ろうか」



         ────



「ここを押して、違うそれは呼び出しボタン」

「おお、この肉料理は美味しそうね」

「それは定番のやつだ。それが良いんならそこ押して、注文カゴに入れるんだ」

「ハルキ、私はお金を持ってないけど」

「いいよ。俺が後で払う」

「助かる」


俺はグウェンを隅っこの席に案内して座らせた。この店は注文が全てタブレットだから操作方法を教えている。


ご老人とかにはやり方がわからなくて教えたことはあるけど、まさか同年代くらいの少女に教える日が来るとは思わなかった。ほんと人生何があるかわからない。


「はい、これで注文完了。10分くらい待ってて」

「おいハルキ。まだ教えてもらってない」

「ああ、スパイダーマンね。ないよ」

「……え?」

「ない」

「は?」

「ないんだって。続きが」

「なんでだ!?」


本当に反応が新鮮で面白い。俺も最初知った時は似たような反応してたっけ。


「なんでって言われてもなあ……興行的とか評価とか諸々の理由で作られなかった。俺も続きが見たいよ」

「あんなに面白いのに! 続きがある終わり方だったのに!」

「いやめっちゃわかるわー。シニスターシックス登場するかと思っ……じゃなかった。声抑えてって。気持ちはすごくわかるけど、俺まだ仕事してるから。後1時間くらいで終わるから待ってて。帰りに感想はいくらでも聞くよ」

「むぅ……わかった。我慢する」


落ち着いたみたいだ。ちょくちょく様子を見にこよ。にしてもなあ、あそこまで興味を持ってくれるとは。アメスパの会話なんて、桜楽以外でしたことなかった。やっぱり……同じ話題を共有できるのはいいな。


「たのし」



         ────



「何!? スパイダーマンはあの世界の人物だけではないの?」

「違うよ。マルチバースはなんでもありなんです。他にもスパイダーマンはピーターパーカーだけじゃなくて、グウェンステイシーとかマイルズモラレスとか、俺も知らない沢山のスパイダーマンが存在するんだ」


バイトが終わって帰路に着いた。太陽はもちろん隠れていて満月がよく見える。桜楽とはたまにレイトショーの映画に行くけど、それ以外で女子と夜を歩くなんてなかった。


グウェンは俺に永遠とアメスパの感想を伝えてきて、俺も楽しくてその話に乗って色々話し始めた。冒頭のスイングシーンが神だとか、そこからサムライミ版のスパイダーマンはウェブシューターを使わないとか、そもそも映画って具体的には何なのか、グウェンがそれはもう真剣に聞き入ってるから、こっちも話し甲斐があった。


時間が無限に流れていくような感覚になって、注意しないと家が通り過ぎてしまうとさえ思った。お互い口が閉じることがない。自分が好きな物に興味を持ってくれることは、本当に嬉しくて、グウェンが既に長い付き合いになる友達みたい………なんて、恥ずかしいことを抱いてしまっていた。


「グウェンもスパイダーマンになるのか。どんな姿か見てみたいな」

「なんかその話し方だと、俺の目の前にいる君がスパイダーマンになるみたいだ」

「確かに、変だね。名前が同じせいだ」

「俺も名前聞いた時は思ったよ。あ、同じだーって」

「そう言えば、グウェンは2で最後には死んでしまったけど、本当にスパイダーマンにはなるの?」

「あの作品はね。スパイダーバースっていうアニメ映画に出てくるよ。それもめちゃくちゃ面白いんだぜ?」

「そうか……」


グウェンは面白いって言ってくれるかな。まだまだ紹介したい映画が山ほどある。て、1人で何盛り上がってんだか。


「……」

「ん? どうかした?」

「……私もああなっちゃうのかな」

「え?」

「映画の中でグウェンが死んじゃったでしょ? だから……私もいつか……あんな風になるんじゃないかと……」


言葉を聞いた時、俺はやっちまったと後悔した。


「ご、ごめん。そんなつもりじゃなかったんだ。本当にただ、好きな映画を見せたかっただけで、ほんとに、そんな気持ちにさせたかったわけじゃなくて……」

「いや、ハルキは何も悪くないんだ! 変な事を言った。忘れて」


作り笑いを見せてくるグウェン。忘れろはもう無理だ。関わってしまった以上、もう少し話を聞くべきだと思った。


「やっぱりあっちの世界が心配?」

「……っ!!」

「俺さ、まだ漠然としたことしかわかってないんだ。戦争とか、本当に実感なくて。見れないから想像するしか方法がない。でも困っているのはわかる。朝もどこか……落ち込んでたし」

「……ハルキは私の心が読めるの?」

「まさか」


ふふっとグウェンは笑みを浮かべてくれた。今度は取り繕ったものではないとわかった。


「心配なのは世界というより、お母さんなの。お母さんは私の全て。たくさん愛してくれて、たくさん大好きを言ってくれた人。貧乏だったけどへっちゃらだった。本音を言えば、国が1つ滅ぼされようが、知らない誰かがどこか遠くで戦死しようが、お母さんさえいればそれで良いの。ひどいでしょ?」

「いや……そんなことない」


俺も似たような考えだ。例えば、桜楽と見ず知らずの他人が崖から落ちようとしていて、どっちかを助ければ片方は崖から落ちてしまう場面に出くわしたら、俺は迷わず桜楽を助ける。


なぜなら見ず知らずの他人を助けても、桜楽と同じように映画の話ができるとは限らないし、多分桜楽といる方が楽しいから。ひどい理由だろ? でも綺麗事並べるよりは、偽りない答えを言った方が良いと俺は思ってる。だからグウェンは何も悪いことなんてないし、むしろ普通のことを口にしているのだ。


「名前が同じだから自分と重ねて、少し変な事を言っちゃったの。ごめんなさい。映画は本当に楽しかった。私の世界じゃずっと殺伐とした生活ばっかりだったから、心がすっきりした。でも悪いことばかりじゃないの。戦場で会った仲間も割と良い人たちばかりで……でもやっぱり……私の1番はお母さんだった」

「お母さんは安全な場所に?」

「魔王軍の戦場地帯とは離れた街で暮らしてるの。昔よりも裕福になってるわ。お別れを告げてから1度も会ってないけど、何回か手紙をくれたの。私の生きる糧。それを肌身離さず持ってると、勇気が湧いてきて、どんな苦境にあっても私は立ち上がれる。笑顔になれる。ハルキもそうでしょ?」

「え、俺?」

「映画の話をしてる時のハルキはすごく生き生きしてる。好きなのが心に伝わってくる。生きる糧と言っても遜色ないと思う」

「いやいやいやいや……」


比べられても困るだけなんだが。


「スケールが違い過ぎる。俺はただ楽しみがそれくらいしかないだけだよ。だから大した会話もできない。家に籠って画面とにらめっこばっかりだから、友達も桜楽くらいしかいないしね」

「私も友達はいないぞ。何かに夢中になれるのは素晴らしいことだ。私も魔術にのめり込んでいたからわかる」

「重みが違うな」

「私には魔術を教えてくれた先生がいたの。小さい頃は、その人みたいに綺麗な魔術を使いたいって思ってた。ハルキも同じかしら? スパイダーマンみたいなヒーローになりたかったとか?」


あぁ……ヒーロー…………ね。


「今も思ってる」

「と言いますと?」

「ヒーローにはずっと憧れてる。蜘蛛の糸でニューヨークのビル群をスイングしてみたいし、でかい盾で助けを必要としてる人たちを守ってみたいし、目が見えなくても自分の生まれた街を守ってみたい。まあ……でも、多分俺はヒーローになれない(・・・・)し、なっちゃいけない(・・・・・・・・)んだ」

「どうして?」

「それは──」


言葉にしようと思ったけど、俺はやめた。物陰からこそこそしている気配を感じたから。


「ハルキ。誰かいる?」

「いるね。おーい、どうせもうバレてるから、隠れてないで出てきたらどうだ?」


一応言ってみたけど、どんな奴らかは見当がついてる。そう、チンピラである。


「なーにかっこつけちゃってんの?」

「うわやっば! 近くで見るとマジで上玉だ!」

「こっちまで来た甲斐ありましたね」


クローズに出てきそうな不良が4人。1人はガラの悪い私服の金髪で、残りは学校の制服らしき物を着ている黒髪。あれは間違いなく獄冥ごくめい高校の制服だった。


また(・・)かよ。せっかく話してんのに」

「ハルキ知ってるの?」

「隣街の獄冥高校って学校があってさ。素行の悪い不良が大勢いる場所で、こっちの街にも度々見かけるの。俺も何回か」

「おい隣のヒョロガリ」


ヒョロガリ? もしかしなくても俺? そんな痩せて見えないでしょ。


「女置いてさっさと失せな。痛い目見たくなかったらな」

「なんでそんなすぐやられそうな言葉吐くの?」

「お前随分余裕だな。女の前だからってカッコつけてんじゃねえよ! さっさと失せやがれ!」


夜なんだから大きな声出さないでほしい。


「なんで私を置いていけと言ってるの?」

「グウェンが美人だから遊びたいんだって。そっちの世界にもこんな奴らいなかった?」

「ああ、確かにいた。お母さんがいつも守ってくれて、魔術を覚えてからは自分で撃退できるようになったわ」

「あーね、グウェンさん。そう言えば魔術のことなんだけど……」

「ごちゃごちゃ喋ってんじゃねえよ!」


私服の金髪の人が俺に向かって殴りかかってきた。隣にいるグウェンが何やら左手を光らせているのが見えた。いかん、これはいかんと思ったので、


「ひでぶっ!」


金髪は俺の右ストレートを右頬にモロに喰らい派手に吹っ飛んでいった。グウェンを含め、他の2人も数秒間呆気に取られていた。


「は……?」

「い、今、何が……?」

「ハ、ハルキ?」

「グウェン。今魔術を使おうとしたでしょ?」


グウェンは無言で頷いた。ほらやっぱり。殴って正解だった。


「俺の学校とかバイト先に来る時も使ってたね。多分風起こして空を移動してきた的なやつ?」

「う、うん」

「あのねグウェンさん。最初に説明した通り、こっちの世界じゃ魔物も魔術もないんだ。グウェンが魔術を使えば目立つ。もし誰かに見られたりSNSにその姿が挙げられたりしたら、ものすごーくめんどくさい。さっきも俺を助けようとしてくれたんでしょ? ありがたいけど、こういう時は魔術よりも良い解決策がある」

「何?」


俺は敵討ちと言わんばかりにこっちに迫って来る3人組を見て、不敵に笑う。



拳骨これ



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