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ヒーローがいない世界  作者: 坂田リン
第2章:二人目
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非常事態



「春喜どうしたの?」

「これ……」


桜楽に大智からの連絡メッセージを見せた。まだ顔を合わせてはいないが、大智を心配するような表情を見せてくれた。


「犯人って処刑人のことだよね? 尾行って……何があったんだろ?」

「わからない。でも何かしらの出来事があって、手がかりを掴んだんだろう。で、元凶を捕まえるために動き出した」


いや、捕まえるは違うかもしれない。尾行をして処刑人を見つけて住む場所を特定したり、写真を撮るだけでも十分な成果だ。


「大智は、最低でも1時間前には尾行を始めてる。もう尾行が終わってればそれでいい。でもまだ続いてるとなると、少し怖いな。とりあえず大智と合流しないと」


これは非常事態だ。バイトは休むしかないな。先輩には申し訳ないけど。スマホを操作して大智にメッセージを送る。1分待つが返事は来なかった。


「まさか大智の方が先とは……」


せめて俺を呼んでから尾行を……いや無理か。俺を待ってる間に見失う可能性がある。危ないことが起きてないことを祈るしかない。


しかし、これは幸運でもある。大智のおかげで、グウェンが帰れる方法を聞き出すことができるかもしれない。


「春喜、場所わかるの?」

「わからない。そもそも尾行だからな。常に移動してるんだろ」

「なら手当たり次第探すしかないか。よし、じゃあ行こう!」

「いや、桜楽は家に戻ってグウェンにこのことを伝えてくれ」

「わかった。じゃあその後合流──」

「俺1人で行く」


真っ当な意見のはずだったが、桜楽は酷く反発した。


「なんで!? 私も行くよ!?」

「大智の当てが外れだったら別にいい。もし大智がアース2の処刑人に出くわしてたら、最悪戦闘になる。戦える奴は俺しかいない。桜楽は危険だからグウェンと一緒にいろ」

「私だって戦えるよ!」

「あのな……」


確かに桜楽は戦える。でもそれは、この世界の一般常識の話の中だけで通じることだ。


「不良や半グレと戦うのとじゃわけが違うんだ。桜楽もそれは身に染みて感じただろ?」

「それは……そうだけど」

「大丈夫だ。チャンスを逃しはしない。もしやばかったら、笑いながら帰還するよ」


桜楽が瞳に涙の膜を張ろうとしてるので、肩に手を置いて安心を感じさせる。でも今安心を伝えるには限度がある。桜楽にはできるだけ心配をかけたくないが、やれる時に行動を起こさねば手遅れになる。


見えてる(・・・・)なら、手を差し伸べられる。いつかの日のように、後悔しないために。


「じゃあまたな」


ちゃんと帰る未来を伝える。今の俺にはそれしかできない。戦いに出ていくヒーローたちは、いつもこんな気分なのだろうか。


無責任な安心しか、大切な人には与えることができない。



         ────



「ぐ……っ!」

「逃げんな山内」


校舎の壁に投げつけられた山内。佐怒賀大智の顔には暗い怒りが渦巻いている。


大智が春喜にメッセージを送る少し前、大智は獄冥高校の体育館裏に同級生である山内大輝を追い詰めていた。


山内の顔には小さなすり傷がある。絆創膏を貼る程度の軽い物だ。これは、春喜と桜楽と()り合った際にできた傷だった。


「なんだよ……大智。俺に何か用でもあんのか?」


山内と大智は一触即発の雰囲気だった。第三者の目線で見れば、些細なきっかけで喧嘩が始まるゴングが鳴る場面にしか見えない。しかし大智にそんなつもりはなかった。


連れてくる仕方は確かに乱暴だったが、大智は山内から直接話を聞きたかっただけだった。


「お前、まだ贄羅威禍亡威(ニライカナイ)にいるのか?」

「……だったらなんだよ」

「何やってんだよお前っ!」


大智が山内の制服の胸倉を掴む。怒りはさらに増幅され、元から強面の表情がさらに険しくなっていた。普段から大智を見慣れた山内は、通常の大智の顔に怯えることなんてなかったが、この時の気迫には少しだけ汗をかいた。


「俺は忠告したぞ! さっさと抜けろって!」

「うるせえな。てか、なんでお前がそんなこと知ってんだよ?」

「お前、最近完膚なきまでに叩きのめされたことあったろ? そいつが教えてくれたんだよ」

「……あいつか。獄冥にあんな奴はいないよな。他校の奴か。なんだよ、お前らつるんでたのかよ」

「そんなことはどうでもいいんだよ。なんでまだいるんだ? 言わなくてもわかってるだろ。贄羅威禍亡威あいつらは底が知れない。蛇天愚隷羅シャングリラの連中よりもたちが悪い」

「んなことわかってんだよ。でも今更遅い。もう抜けられないんだよ。もし抜け出したりなんてしたら……」


強気に見える山内の瞳は揺れ動き、震えていた。それが怯えによるものだと、大智はすぐにわかった。


「お前の彼女……このこと知ってんのか?」

「んなわけねえだろ。最近は……あんまり会ってない」

「山内、お前別れるとか言うんじゃないだろうな?」

「……」


山内が続けた沈黙を、大智は彼の頬を殴って打ち破った。


「んなっ……テメェ!」

「ふざけんなよ! そんなこと俺が許さねえぞ!」

「お前に関係ねえだろ!」

「あるに決まってんだろ! 俺たちダチだろ!」


嘘が微塵も含まれていない、真っすぐで眩しすぎる温かい言葉。「お前は……変わんねえな」と、大智の誠実な思いに、山内は叫ぶ気力を失った。


「ちくしょう……恥ずかしいこと言わせんな」

「お前はそういうキャラだろ?」

「うるせえ」

「はっ……大智。俺には別の用があったんじゃねえか?」


山内の指摘は当たっていた。大智は山内に訊きたいことがあった。学校では山内が大智をわざと避けるようにしていたため、仕方なく放課後の時間に問い詰めるしかなかった。


「感情が昂り過ぎてそれどころじゃなかったみてえだけど」

「悪かったな」

「あの例の奴のことか?」

「察しが良いな。そうだけど、お前は何も知らねえんだろ? その、お前をぶっ飛ばした奴と情報を交換してな」

「仲良くヒーローごっこか」

「一応直接訊こうと思ったんだが、今はそんな気分じゃなくなった」

「あるぞ。情報」


山内が溢した言葉に大智は食いついた。


「俺が既に知ってるやつだろ」

「多分違うぜ。うちの2年に川崎っていう男子の先輩がいるんだよ。そいつも贄羅威禍亡威ニライカナイだ。俺もグウェンっていう奴の話はその先輩から聞いたんだ。それで川崎から小耳に挟んだんだが、連中の一部は今日の夜、あのヤバいくらい強い奴と会う予定があるらしい」


犯人探しに射した暁光。もしそれが真実ならば、街を苦しめようとしている諸悪の根源の顔を拝めるかもしれない。期待が顔に出ていたことを、山内は薄く笑った。


「今日知ったばっかの情報だ。まだ川崎は教室にいる。後をつければ見れるかもしれねえな」

「なんでそんなこと……」

「助けたいとか思ってんだろ? その、グウェンとかいう奴を。それか知り合いの女子が危ない目にでもあったか? 良いとこみせたいとか、お前は邪な理由で動く奴じゃないことぐらい知ってる。小、中って、お前はずっと周りから小さなヒーローって呼ばれてたからな」

「そんな綺麗なもんじゃねえよ」

「どうだか。でもこれは親切に伝えたわけじゃねえ。警告だ。得体の知れない奴に関わるのはやめとけ」


警告などと恐怖を煽る言い方をする山内だが、心中は1人の友達にその足を止めて欲しいだけだった。


「俺はこの目で見ちゃいねえけど、お前の探してる奴はヤバい。多分、贄羅威禍亡威の連中よりも。半グレとかそんなレベルじゃなくて、もっとこう……なんか」

「数日前に同じようなことを言われたよ。でも俺は逃げねえ。知り合いの友達が危険な目に遭ってるのをこの目で見たんだ。こんなバカみてえな騒ぎ、さっさと止めねえと」


大智はどこまでも真っすぐだった。山内はそんな大智を尊敬していた。だからこそ、傷ついてほしくなくて、自分から関わらないようにしてきたのに。それは無駄なようだった。


「言っても聞かねえな」

「事を片付けたら、今度はお前だからな」

「は?」

「俺はお前を見捨てない。約束だ」


光輝く眼差しを残して、大智は背を向けて歩き出す。山内はふざけたように笑いながら言う。


「黒い『悪魔(・・)』と『幽霊(・・)』みたいに潰すのか?」

「それもいいかもな」


大智もまた笑う。「なんだよ……それ」、泣きそうな声で呟くのみで、大智を追うことはなかった。



         ────



案の定、大智は行動を開始していた。校門から出てきた川崎を待ち伏せし、尾行を始めた。周りには数名の生徒を連れていた。間違いなく同じ贄羅威禍亡威の者だとわかった。念の為、連絡先を交換していた春喜にメッセージを送った。


(一体どんな奴なんだ……)


気配を勘付かれない距離を保ちながら、大智は川崎一派から目を離さなかった。川崎たちは、道中で仲間と思わしき人たちを集めながら、どこか目的地に足を運んでいた。


目の前を歩いている全員が贄羅威禍亡威のメンバー。友達である山内を苦しめている連中をこの場でぶっ飛ばしてやりたくなったが、それで山内が解放されるわけじゃない。今は辛抱の時だった。


(春喜は手伝ってくれる……いや駄目だ)


ふと知り合った春喜のことを考えた。自分のやることに協力すると言ってくれた優しい彼なら、贄羅威禍亡威のことにも何か頼ることができるのではないかと。しかし、それは頭の中で振り払った。また私情を押し付けるなんて厚かまし過ぎる。


大智は考えることをやめ、尾行に集中した。すると川崎たちは、ある場所に辿り着いた。


「野井公園か」


野井公園。獄冥高校から北西に位置するかなり広い土地を有する公園に、彼らは来た。5分ほど待っていると、そいつは姿を現した。


「あいつが……」


遠くからその姿を目の当たりしたが、大智が感じた第一印象は、期待外れだった。


もっと都市伝説に出てくるイエティのような風貌のゴツイ人間なのかと想像していたが、身長も周りにいる奴らとそれほど変わらず、特徴的なのは目つきの悪い所と薄橙色のがさついた髪くらいだった。後は服のセンスが変な所くらい。


やられた友達や春喜から事前に犯人の人物像は頭に入れていたが、それでも少し拍子抜けする物だった。自分の中で想像を膨らませ過ぎたと、肩の力が抜けた。


「撮っとかねえと」


自分のスマホを取り出し、なるべく拡大して犯人の被写体をはっきりと映す。カシャカシャと10枚ほど保存する。念の為動画でも撮っておくが、これは流石にいらないかもしれない。やがて川崎たちは犯人に頭を下げ、公園の奥の方へと消えていった。どうやら話し合いが終わったみたいだ。


気づけば太陽は1日の役目を終えて姿を消していた。


(そうだ、連絡しとかねえと)


大智はスマホで春喜にメッセージと撮った写真を送ろうとした。開くと、春喜からもメッセージが届いていることに気づいた。




「何やってんだお前?」




同時、大智は自分の目の前に気配を感じた。今はスマホに目を向けているため、顔はまだ見えなかった。間違いなく問いかけは自分に向けての物だと悟る。


「おい、返事しろよ」


急かす相手に恐る恐る顔を上げてみると、さっきまで20mは離れていた犯人の姿がポケットに手を入れてこちらを睨んでいた。



春喜にメッセージは送れていない。




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