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ヒーローがいない世界  作者: 坂田リン
第2章:二人目
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悪い兆し



大智とはファミレスで別れ、先輩は俺が家まで送り届けた。桜楽と連絡を取り、グウェンも呼んでいつものブランコしかない小さな公園に夜に集まって、何があったのかを話した。桜楽はなぜか俺が貸したままの盾を装着していた。


「へーそんなことあったんだ」

「とりあえず一難去ったって感じ。てか、その盾返せ」

「えーいいじゃん。ここまで来るのにこれで身を守ってきたんだよ?」

「だから、俺が桜楽の所に行くって電話で言っただろ」

「春喜疲れてるでしょ。大丈夫。私とグウェンさんはそこらの不良に犯されるほど、弱くない!」


言葉の終わりに桜楽は盾を水平に投げた。すると盾は、ブランコを支える支柱にぶつかり、フェンスを挟んで奥にある一軒家の壁に跳ね返り、さらに同じようにして斜めの壁へと跳ね返り、自動追尾のように桜楽の手元まで戻って来た。


「このように、私は高等テクニックも身に着けています」

「おまっ……なんでそれできるんだ?」


顔にどう出ているか見当もつかないが、俺は今かなり驚いている。盾を投げて跳ね返りを利用して自分の元へ戻らせる手段は、本来現実では実現不可能な業だ。キャプテンアメリカが映画で軽々やりこなしているのは、あれが全てフィクションだからだ。理論的には可能とかよくわからんが、あんな芸当をできる人間なんているわけがない


俺ができているのは、グウェンによって手に入れた魔術のおかげ。一般人である桜楽がそれを目の前で披露したなんて、俺は幻覚でも見てるんじゃないかとさえ思った。


「どうなってる?」

「いやーそれはあれだよ、あれ。角度を計算して軌道を予測した的な?」

「いや無理だろ絶対!」

「できるよ! 私計算得意だし!」

「テス勉の時に俺から数学教わってただろ!」

「わー聞こえないなー。耳から外に音が抜けていくなー」


こいつしらを切るつもりだな。何か隠してるのは明白だが、これじゃ話が進まない。話すべき人は他にいる。この場に居づらそうな雰囲気を放っているグウェンだ。


「グウェンはなんでそんなもじもじしてんの?」

「え? あ、いや」

「大方、今回のことに責任でも感じてるとか。当たってる?」

「……」


短い沈黙はYESだった。グウェンは俺たちに迷惑はかけるわけにはいかないと思ってくれる善人。しかし悪い意味で言えば、お人好し。優しい性格は誇らしくあるべき良点だけど、その分1つの不利を重く受け止めてしまう悪点もある。


「ハルキの知り合いが大変な目に遭ったんでしょ? 私、一度春喜が働いてる店で見たことある。また……私のせいで」

「気に病む必要なんてない。悪いのは変なこと言いふらした処刑人であって、その文言を真に受けた馬鹿共だ。断じてグウェンに否はない」

「そうだよー。別に世界滅亡のスイッチ押したわけじゃないんだから。映画の戦犯キャラより100倍マシでしょ」

「慰めになってねえぞ。とにかく犯人を捕まえれば解決なんだが、居場所がわからない」


倒す目標が定かなのはありがたいが、姿を確認できないことには何も始められない。


「山内たちは何か知らなかったのか?」

「特には。春喜が行った後にも尋問したけど、グウェンさんの話は別の人に聞いたらしくて。詳しいことは知らなかった」

「そうか。大智にも連絡は取ってるけど、とりえあずは様子見か」

「じゃあ今から路地裏探しまくってカス共をボコボコにしようぜ?」

「もう夜遅い。明日は国語と数学の小テストもあるだろ? ちゃんとやったか?」

「国語はやった! 数学出そうな範囲教えて~?」

「たくっ……」


俺らの本業は学生だ。勉強を疎かにするわけにはいかない。第一、こんな時間に長時間家を空けたら両親に怪しまれる。


「わ、私もやるぞ。探すくらいなら私でもできる」

「いや、かえって危険だ。どこに処刑人が歩いてるかわからないからな。窮屈だとは思うけど、なるべく桜楽の家にいてくれ。それにグウェンの1番の仕事は、身体を万全の状態に治すことだ。そうすれば、このじれったい状況は一瞬で打破できるんだからな」


俺が処刑人をぶっ飛ばすのは、元を辿ればグウェンが満足に戦うことができないからだ。もし完全復活を遂げたのなら、隠れるなんて真似はしなくて、グウェンが処刑人の元へ殴り込みにいけばいい。


本来グウェンは俺なんかに守られる存在ではなく、自分で自分の身を守れる強い子なんだ。それが精神面において重く受け止めてしまう問題点が生まれているけど、物理的な面だけを見れば、グウェンに勝てる奴なんてこのアース1にはいない。


「大丈夫だ。俺たちは決して不利な状況じゃない。焦らずやれることをやっていこう」

「そうそう。じゃあ数学教えて?」

「それは自分でやれ」

「ふふっ……ありがとう」


俺らのくだらない会話に、グウェンは少しだけ笑った。とはいえ、グウェンの心を圧迫するのは俺も心苦しい。何か進展の兆しがあればいいんだけど……



         ────



「クソッー! もうやだー!」

「5分おきに叫ぶな。ここ図書室だぞ」

「大丈夫。図書委員さんは私のファンだから〜」


理由になってない。マジで気が散ってしょうがない。大智と会ってから2日後の放課後、今は桜楽と一緒に学校でもうすぐ控えてる中間テストの勉強に勤しんでいる。


中学の頃から桜楽がよく勉強に誘ってきており、今日も同じようにしているのだが、こいつは集中力があまりないので、途中から関係のない話を始めたり泣き言を喚く。正直1人で勉強した方が捗る。


「よし、エンドゲーム流しながらやろう」

「やめれい。スマホ出すな。なんでことあるごとにお前は映画を観ようとするんだ」

「だって、つまんないんだもん」

「小テストもギリギリだったくせに」

「いやー春喜のおかげで命拾いしましたわ」


桜楽は決して成績は悪い方ではない。だが良いと言われれば即答はできない。ちゃんと勉強すれば中の上くらいの点数を取れるはずなんだが、なにせ少し怠け癖がある。


気になった洋画の映画シリーズを観た過ぎて、試験勉強そっちのけで観続けた時もあった。顔も美少女で運動神経も抜群だが、漫画に出てくる完璧美少女とは少し違う。まあそれが桜楽の良い所でもあるんだけど。


「補習にでもなったら映画観に行けなくなるぞ」

「それはやだ! 次に春喜と何観に行くかグウェンさんと相談してたんだよ! あーでも今は下手に出歩かない方がいいのか?」

「1回映画行ったけどな」

「確かに。じゃあ大丈夫か?」

「大丈夫ではない」

「でもグウェンさん言ってたよ。なーんか、えあーせんす? だっけ? 気配消したりできる魔術。それの応用で自分の容姿とかを変えることができるって。あ、変えるじゃないか。認識を混乱させるとか、そんな感じのこと言ってた」

「マジで?」


それだったら街中で偶然出くわすなんて心配もいらなくなるな。いや、そもそもこっちは相手側の顔も知らないんだ。やっぱりまずは──


「まーでもやっぱり敵さんの顔くらいは知りたいよねー」


桜楽が俺の言いたかったことを言葉にしてくれた。


「よし! 勉強ほっぽり出して不良をボコボコにしに行こう!」

「よし、じゃねえ。ディズニーランド行く感覚で言うな。てか、お前からは勉強のストレスを発散させたい私欲を感じる」

「街の治安を守るためですよ」

「成績も守らないとな。情報取集なら大智にも連絡は取ってる」


大智とは、ファミレスで解散する前にお互いの連絡先を交換した。一応、俺と桜楽が獄冥高校の奴らとやり合ったことと、手に入れた情報(大智も知ってるから特に役立つとは思えない)は共有してある。大智にも、何か新しい情報を手に入れたら報告してくれと頼んである。もちろん無理のない範囲で。


「春喜が知り合った怖くて優しい人ね」

「言葉が足りてない気がするが、まあそうだな」

「いいねー。春喜もなにかとやる気あるんじゃん」

「何が?」

「アベンジャーズを結成するための仲間集め!」


少し前、桜楽は同じようなことを言っていた。



【私たちでアベンジャーズを結成する!】



あれは、俺とグウェンが改めて桜楽に事の経緯を話した時だったか。


「あれあの時で終わっただろ」

「ノンノン。私たちの物語が打ち切りにならない限り終わりません」

「なんだそりゃ」

「これで、春喜、私、グウェンさん、大智だっけ? ほら! もうファンタスティックフォーだよ!」

「ファンタスティック要素どこにあるんだ。第一、大智は俺たちの事情は何も知らない。巻き込むわけにはいかないだろう」


大智にもあまり下手な動きはしないようにとメッセージは送ったんだけど、言葉だけじゃ中々行動を制限できはしない。大智は正義感が強そうだし。学校も別に近くないから、会うのは一苦労だ。


「どうかな~? 私みたいに事情を話さなくちゃならない事態になりそうなんだけど」

「そうならないために、早く処刑人を見つけなきゃならない」

「よし! 勉強ほっぽり出して不良をボコボコにしに行こう!」

「時間をループさせるな! 今は勉強だろ!」

「ちぇ」


いかん、話を脱線し過ぎた。口ではなく手を動かす。桜楽も観念したのか、俺と同じくシャーペンを握り始めた。



         ────



「勉強やりまくったね~。今なら200点取れそう」

「それをテスト本番に出してください」


まだ範囲やりきってないけど。図書室がもう閉まる時間だったので、俺たちは靴を履き替え家路につくことにした。まだ太陽は見えるけど、後1時間もすれば真っ暗になるだろう。


「この後、春喜バイトだっけ?」

「うん」

「じゃあ春喜の店で続きやろっかな」

「1人で? 飯食って寝るんじゃないのか?」

「春喜の頑張りを眠気覚ましにして頑張ります」

「なんじゃそりゃ」


くすっと、思わず笑ってしまう。ホント、桜楽といると気が緩む。


その時、俺はポケットにあるスマホに手を伸ばした。特別な意図はなかった。勉強の途中から、桜楽とお互いにスマホの電源を落としていたから、再び電源をオンにした。


何か通知が来てないかと、意図と呼ぶにも値しない目的だ。画面を見ていると通知が来ていた。確かめると、大智の連絡だった。1時間前には来ていたらしい。


素早くタップすると、俺は言葉を失った。進展の兆しが来ればいいなと、俺は願っていた。しかしこのメッセージを、俺は悪い兆しと捉えるしかなかった。



『今、犯人と会うかもしれない奴を尾行してる。何かあったら連絡する』



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