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ヒーローがいない世界  作者: 坂田リン
第2章:二人目
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佐怒賀大智





「俺は佐怒賀大智さぬがだいち。獄冥高校の1年だ」

「獄冥!? しかも俺とタメ!?」

「大智くん、3年生でもおかしくないくらいに見えるね」

「よく言われます」


俺と先輩、そして先輩を助けてくれた男──佐怒賀大智の3人で、近くにあったファミレスに入っていた。今はお互いに自己紹介をしていて、最後の大智が今終わった。


「改めて大智くん。助けてくれてありがとう。大智くんがいなかったら、私今頃どうなってたか」

「俺からも礼を言わせてほしい。本当にありがとう」

「おいおい、そんなかしこまんなくったって。俺はたまたま見かけただけなんだ。栞さんに怪我がなくて良かった」


大智は見た目だけ見れば強面だが、ちゃんと話してみれば何とも誠実な人間だった。本当にこの人があの野蛮で有名な獄冥高校の生徒なのか疑いたくなる。


「その、マジで攻撃して悪かった。俺も必死だったんで」

「良いって良いって。自分の彼女がピンチな時は、そりゃ思考も狭まるだろ」

「ん?」

「えあっ、いや、だ、大智くん。ち、違うんだよ」


先輩が冷静さを忘れて狼狽える。高嶺の華と言われる先輩も、こういう瞬間を見ると他と大差ない女の子なんだと認知できる。


「違うのか?」

「バイト先の先輩なんだ。ついさっき電話がかかってきて、急いで駆けつけて来たんだ」

「そう言えば春喜くん、よく来れたね。学校終わったばかりでしょ? 結構距離があると思うんだけど……?」

「た、タクシー捕まえれて、その運転手がすげー速さで運転してくれたんです」

「そうなの? いくらだった? 私払うよ」

「いやいやいいですよ! 先輩が無事なだけでお釣りが返ってきましたから」


そもそも嘘だし。でも本当のことを話すわけにもいかない。


「それより、大智はなんでこんな所にいたんだ? 獄冥からはまあまあ離れてると思うんだけど?」

「ああ……実は人を探してたんだ」

「人? 友達か?」

「違う。というか名前もわからない」

「どういうこと?」

「俺のダチが、その探してる奴に襲われたんだ」


大智の話に何か既視感を感じた。先輩が「良ければ話を聞かせてくれない?」と深掘りを促し、大智は隠す素振りもなく話してくれた。


「3日前、俺のダチがすげえ怪我で学校に来たんだ。訊いたら、ヤバいくらい強い奴にやられたって。その後に変な命令をされたらしいんだ」

「命令?」

「グウェンって奴を探せとか、逃げたら殺すとか周りに吹聴しろって、わけわかんないことばっかり。でもそのグウェンを探せた奴には金をたんまり出す話もあったらしい」

「……」


おいおい、まるっきり同じじゃないかこれ。大智の友達も異世界からの処刑人に出会ったってことか。


「俺のダチをやった犯人は、多分どうしても捕まえたい女がいるんだ。グウェンって名前からして外国人の女だろう。たまにいるんだ、女に執着するクソ野郎が。探すために他人を片っ端から暴力でねじ伏せてる奴だ。ロクな奴じゃない。噂じゃ贄羅畏禍亡威ニライカナイの連中まで巻き込んでるって。ホントヤバい奴だぜ」


ちょっと前に殴り倒した連中の1人が口にしていた単語を、大智も言った。大智はそのまま話を続け、先輩も特に指摘しなかったからとりあえず傾聴を続ける。


「獄冥高校の生徒は素行の悪い奴もいる。俺のダチも問題がある部分もある。馬鹿だし喧嘩もする。今回の件は罰が当たったんだって思うけどさ、やっぱダチ傷つけられて黙ってらんねえんだ。それに栞さんみたいな人が実際に被害に遭ってる。日にちが経てば、うちの高校の女子にまで被害が拡大するかもしれない。このまま野放しにしておくわけにはいかないだろ」

「じゃあここら辺にいたのは、その、お友達を傷つけた人を探してたの?」

「はい。つっても、当てもクソもなかったんですけど」

「マジかよ……」


俺と同じ考えの人間がいるなんて予想外の展開だ。大智が言った処刑人の行動理由に関しては見当違いな部分はある。しかし友達のため、他人のために行動を始めた大智は、まさしく漢の中の漢と呼ぶに相応しい。いやほんと、人は見た目によらない。蹴ってしまった少し前の俺を殴りたい。


「でも大智。こんなこと言うのはあれだけど、ちょっと無謀じゃないか? その探してる犯人が想像以上のヤバい奴だったらどうしてた? 大智が強いのはわかるけど、銃でも持ってたら対処の使用がないだろ」


大智の友達想いな精神は評価するが、今回は危険すぎる。仮に相手がヤクザとかだとしても、相手が大智なら一般人とハルクだ。まず負けることはないだろう。でも相手は異世界からの処刑人。人類と敵対してる魔王軍の一員なんだ。敵意を向けられれば何をされるか想像したくはない。


会って間もないが、大智が良い奴なのはよく理解できた。良い奴に傷ついてほしくはなかった。


「そうだな……そこまで考えてなかった」

「ここは1つ、俺にも協力させてくれないか?」

「え?」

「先輩も被害に遭ったんだ。今もどこかで罪のない女性が苦しんでるかもしれない。街を汚い男共の巣窟にされたんじゃたまらない。その諸悪の根源の犯人を捕まえれば、被害は食い止められるはず。俺には情報通な友達もいる。俺と大智が組めば、より確実な情報が集まるはずだろ?」


情報を集めるために、人手が多いことは大きなメリットになる。何より俺が協力の立場にいれば、大智が危険な目に遭うリスクを減らせるはずだ。最後の仕留める役割は俺がやればいい。


「確かに一理あるが、春喜が危険になるだろ?」

「大丈夫大丈夫。俺タフだから」

「それだけ?」

「それに加えて、俺には頼もしい仲間もいるんだ。俺なんかよりよっぽど強い奴もいる。損はさせないと思うぞ」

「いや、損とかは思ってねえけど」

「ここで会ったのも何かの縁だ。一緒に街の平和を守るヒーローになろうぜ。なんつって」

「春喜……お前良い奴だな」


いつかだったか、偶然知り合った銀髪の少女にも、同じことを言われたのを思い出しながら、俺は大智と握手を交わした。



         ────



「たっだいま〜」

「おかえりグローリ。なんだか気分が良いみたいだね」

「おっ、わかるか?」


ホテルの一室でシャインが出迎えてくれた。中にはいつもと同じ仲間たちが勢ぞろいしていて、机の上には大量のお菓子やペットボトルがあり、皆で何かをしているようだった。


「グローリ帰って来た」

「おかえり~」

「グ、グローリお兄ちゃん……大丈夫? 怪我とか……してない?」

「おうよ。ありがとなサン」


唯一自分の心配をしてくれたサンが可愛くて、グローリは思わず頭を撫でてしまった。サンは恥ずかしそうに頬を赤くしたが、行為をやめろとは言わなかった。


「で、お前ら何やってんだ?」

「UNOっていうカードゲーム。中々面白いよ」

「へー。何か美味そうなもん食ってるし。めっちゃだらけてんじゃねえか」

「だって、私たちは休憩っていう任務を堪能中ですから~。あっ、今日の昼にハンバーガーって食べ物も食べたよ。めちゃめちゃ美味しかったな~」

「満喫してんなおい」


グローリはクッキーのお菓子をルミナスの隣にある菓子袋から奪い、口に入れる。


「うまこれ。てかクグツ様は? 現状報告してえんだけど」

「出かけたよ。エレーナと一緒に」

「は? エレーナ姉さんも行ったのかよ」


確かにエレーナの姿はこの中にはなかった。クグツは事前に言っていた個人的な用を済ませに行ったのだろう。


「個人的な用だから邪魔したくないって言ってたんだけど、何か心配でじっとしてられないんだって」

「はあ……さっさと告白すりゃいいのに。大体、こんな世界にクグツ様に危害を加えられる奴なんていないだろ」

「気持ちの問題だよ」

「それよりそっちはちゃんとやってるんでしょうね? じゃないとエレーナさんに色々言われるわよ」


グローリはルミナスの警告には動じなかった。


「問題ねえよ。むしろお釣りが返ってくるぞ。うまくいけば協力者か消えた少女を見つけられる」

「おーグローリ自身満々じゃん」

「俺もグローリが何をしているか気になって調べたけど、中々面白いことをしてるね。でも肝心の消えた少女に関しての情報がおざなりだよ。ふふっ、美人って」

「仕方ねえだろ。それしか覚えてなかったんだから」


グローリは人として乱れた者たちをしらみ潰しに当たり、自分の奴隷とした。後は時間が経てば勝手に任務を果たされると浮かれていたが、1つだけ懸念点があった。


グローリは、消えた少女の名前こそ知っていたが、詳細な情報はあまり覚えていなかった。


「クグツ様にちゃんとしたやつ聞こうと思ってたんだけどな〜」

「クグツ様はあんたを止めようとしてたでしょ。それなのに、任せてくださいって張り切って飛び出して。あんた人の話聞きなさいよ」

「ぐぬぬっ……言い返せねえ」

「それに問題点はまだある。探し出すための要素が揃っていたとして、消えた少女がその通りの姿で出歩くとは思えない。優れた魔術師ソーサラーは、気配察知(エアーセンス)の応用で自分の気配から見た目さえも他者に誤認させることができると聞く。『魔帝』の名が付くほどの者ならそれくらいできてもおかしくない。ジン様が付けた傷で魔術の性能が落ちてる可能性もあるけど、何とも言えないね」

「えぇ……」

「あっはははは! グローリめっちゃ文句言われてんじゃん!」

「文句じゃない。アドバイスだよ」


シャインの言い分は確かなので、余計に自分の行動の詰めの甘さが浮き彫りになって肩を落とすグローリ。ホープがその姿を面白がり、サンだけはグローリをフォローしてくれた。


「だ、大丈夫だよ。グローリお兄ちゃん、頑張ってる」

「うぅ……ありがとなサン。慰めてくれて」

「落ち込むことはないさ。逆にグローリがばら撒いた曖昧な消えた少女の情報のおかげで、クグツ様が言ってた『逃げられない』思考を植え付けることには成功してると思うよ」

「どういうことだ?」

「『魔帝』に関しての小さな情報なんだけど、『魔帝』は魔王軍の捕虜となった女性や子どもを100人以上救い出したことがあったらしい。たった1人でね。自分の実力に自信があったからこそできたことかもしれないけど、普通はそんなことしない。捕虜が戦える兵士ならわかる。劣勢の人間軍は1人でも戦える人材が欲しい。でも助けたのは非力で守られるしかない弱者たち。『魔帝』は超が付くほどのお人好しだ」

「それで?」


グローリはまだシャインの言いたいがわかっていない様子だったので、シャインは最後まで言葉にすることにした。


「グローリの不明確な情報なら、恐らく無関係な人たちにも被害が出る。賢しい少女なら、そんな騒ぎを見て見ぬフリをして遠くに逃げ出したりはしないでしょ」

「おーなるほどな! じゃあ俺のやり方は何も間違っていないわけだ!」

「結果論で威張るな。大体、迷惑をかけないっていうクグツ様の命令破ってるじゃない」

「まあ、クグツ様も多少なら許してくれるよ。それに騒ぎに乗じて、消えた少女、もしくは協力者を炙り出せるかもしれない。そしたらクグツ様の負担も減らせる。適当に撒いた餌にも価値は生まれるさ」



シャインのフォローは気休めとも捉えられるが、グローリは元気を取り戻し、シャインたちがやっていたカードゲームに参加した。




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