情報収集
「旦那旦那、情報を持ってきやしたぜ」
「何だその喋り方」
学校の下駄箱で桜楽と出くわした。上履きに履き替えた後、情報とは何ぞやと桜楽に問うた。
「もちろん、処刑人関連ですよ」
「グウェンの?」
敵の情報を仕入れてきたのか。一体どこから?
「隣のクラスの子の中学の時の友達の幼馴染の男子の話なんだけど」
「ややこしいな」
だが桜楽ならそんな情報も手に入れられる。桜楽は言わずもがな学校の人気者。俺なんかとは違い人脈もコミュ力も広く、情報の仕入れなんてたわいもない誰かとの会話から引き出せる。
桜楽さん様様ってわけですわ。
「その男子がさ、隣町の獄冥高校から少し離れた西陽高校って学校に通ってて、なーんか金づるのターゲットにさせられてたらしいんだよ。で、その日もクソ共から金を無理矢理奪われてたらしいんだけど、乱入者が入ってきたの」
「ふむふむ」
「そいつがすげー強かったんだって。自分以外全員ボコボコにして、逃がしてくれた。いやー話だけ聞くとダークヒーローって感じだよね」
「グウェン関係あるかこの話?」
「ここからだよ」
お互い教室の席へと着いてから、再度話を始めた。
「次の日、恐喝してた奴らが話してたらしいんだけど、何か頼まれたみたいなんだって。そのボコボコにして来た奴から。ある人物のことを広めてほしいって」
「まさかそれって」
「ある人物の名前は、グウェン=ロザリー」
これは決まったな。同姓同名の外国人がいない限り、そのダークヒーローさんはグウェンを殺しに来た処刑人ってわけだ。
「あっち側も行動を表してきたか。広めるって何だ?」
「具体的にはね、『グウェン=ロザリー、逃げれば協力者ごとお前を殺す』って、言わされてるらしい。後はグウェンさんを探せって」
「協力者……まさか、俺たちの存在に気づいた!?」
「いやーそれはないんじゃない?」
桜楽は俺たちの身バレを否定した。
「多分だけど、相手側のただの予想? 私たちは当事者だから知ってるけど、敵はモールにいたあの変態クソ野郎がどんな風にボコボコにされたかなんて知らない。相手からすれば、グウェンさんが1人で頑張ってボコボコにしたってことも考えられるんだよ。でもグウェンさんは負傷して魔術が上手く使えない。だから協力者がいるんじゃないかって、考えることもできるってわけよ」
「な、なるほど」
グウェンに協力者がいると、まだ確定事項に敵さんはなっていなくて、まだ可能性の段階ってわけか。実際当たっているんだが、これなら身バレの心配はしなくても大丈夫そうだな。
「処刑人様はこの一見だけじゃなくて、周りにいるチンピラとか不良に絡んで、自分の隷属として人数を増やしてるって話も聞いた」
「グウェンを探し始めたのか。気配も魔力も消してる以上、街の人間使って数の力で手当たり次第。協力者を殺すってのは脅しか?」
「そうだね。私たちを人質に逃げ道を塞いだとか。相手はグウェンさんの性格を知ってるのかも」
「でも好都合だ。相手から動いてくれたんなら、俺があっちを探す手間が大分省ける。捕まえて情報を吐かさせてやる」
「うわー言葉だけ聞くと悪人だー」
格好なんて気にしてられるか。現れたチャンスをみすみす逃すわけにはいかない。
「とりあえず当事者たちから話を聞いてみるか」
「誰に?」
「周辺の不良たちにも手ぇ出したんでしょ? だったら獄冥高校ら辺適当に歩いていれば、知ってる不良くらい見つかるだろう」
「いいねー。中学の頃思い出しちゃうなー」
「別に俺1人でもできるぞ」
「ちょっとちょっと、仲間外れにする気か~? 別に敵とタイマン張るんじゃないんだから。不良相手なら人数多い方がいいでしょ」
「それもそうか」
獄冥高校か……嫌でもあの時の光景が浮かんでくる。自己満足のヒーローごっこ。あれはあれで、楽しい思い出ではあったけど。
「早速今日から動くか」
「えー今日はゴジラvsコング観返そうと思ったのに」
「なんで?」
「日曜日に見たやつが普通だったから、口直しにと思って」
「じゃあ明日にするか?」
「いやいいよ、いつでも観れるし」
話が帰結した時、学校のチャイムが鳴った。
────
「いやーこっちの町来るの久々だね〜。あの事変以来?」
「そんな教科書に載るもんじゃないよ」
学校が終わり放課後、お互いに私服に着替えて隣町の雑貨屋の前で待ち合わせをした。揃った所で歩き出し、話が聞けそうな人物を探して回る。
「また仮面被る?」
「いらんいらん。あそうだ。必要ないと思うけど、出しとくか」
前後左右に人がいないこと確認した後、無から(正確には魔術を発動して)右手に黒色のブレスレットを装着する。そして指を触れ、右腕の前腕部分にのみ天位魔術のスーツを顕現させる。
「部分変身もできるんだ」
「練習したんだ。そしてそして」
備え付けられてあるキューブの内1つを外す。頭の中で想像を作り、キューブをキャプテンアメリカのような丸い盾に変形させた。
「おー何何急に?」
「実用性を実戦で試す」
「キャプテンジャパニーズ?」
「キャプテン名乗れるほど聖人じゃない」
「ねえねえ、私のないの?」
「欲しいのか?」
俺はもう1つキューブを取り外し、同じような盾を生成した。
「やったー! これでキャプテンの次回作撮ろっかな〜」
「まあ別に、使わずに済むんだったらそれに越したことはないんだけど……お、いたいた」
桜楽が盾を構えながら色々なポーズを取っている途中、狭い駐車場の隅に固まっていた男集団を見つけた。全員が獄冥高校の制服を身に纏っていた。
「どうする? とりあえずボコボコにする?」
「やめとけ。話が通じるかもしれない。おーい、そこの人たち!」
軽い感じで話しかけたつもりだが、もれなく全員が俺たち2人を睨み付けた。その時何人かの顔に殴られた跡や包帯が巻かれていた。単に喧嘩でできた傷かもしれなかったが、処刑人の襲撃に遭った人たちの証拠かもしれなかった。
「誰だお前?」
「まあまあ、そんなピリピリしないで。俺たちちょっと訊きたいことがあるだけだから」
「おい山内、隣の女」
山内と呼ばれた男は、隣にいた茶髪の仲間から耳打ちされる。すると桜楽の方をちらっと見た後、にやりと口元を怪しく歪めた。
「お前ら囲め!」
山内は仲間に指示を出し、俺たちの逃げ場を無くすように取り囲んだ。
「えっと……何してんの?」
「どこの誰だか知らねえが、ちょっと付き合ってもらうぜ」
「俺の話は?」
「どうでもいい。お前らは金になりそうだ」
「金?」
「美人の女と一緒にいる協力者。お前ら捕まえれば金がもらえるんだよ」
何を言ってるかよくわからなかったが、とりあえず話し合いはできなそうだということは理解できた。
「やっぱ駄目か」
「血の気が多いねえ」
「でも協力者か……情報が手に入りそうだな」
「抵抗して俺らを敵に回さないことをオススメするぜ。なんせ、俺らは贄羅威禍亡威だからな」
「は?」
にらいかない? 何だそれ?
「私たちが前倒したやつとは違うね」
「て言っても、彼女連れたなよっちい奴なんざ、抵抗なんてできねえか!」
山内が警戒もなしに拳を掲げ1歩を踏み出した。戦闘不可避、俺は腹を決める。拳が顔に到達する前に山内の腹を1発蹴りを入れ、隙ができた体に盾の攻撃を喰らわせぶっ飛ばした。
「ごはっ」
「や、山内!?」
「いつからこの世界は不良漫画になったんだよ」
「この野郎!」
「よい、しょ!」
俺は自身の盾を左後ろにいる不良目掛けて、思いっきり投げつけた。盾の体当たりは不良を押しのけ、それだけでは終わらず意思を持ったかのように跳ね返り、右斜め後ろにいた不良の元へ滑走する。攻撃は当たり、さらにそれだけでは終わらずまた跳ね返り不良を攻撃。二等辺三角形を描くようにして盾は自在に動き回り、俺の手元へと帰って来た。
「な、なんだ今──」
「おおおおおおおおおお!! やばっ!?」
不良共の狼狽は桜楽の興奮によって掻き消された。
「何それやばっ!? マジで!? それできるんだ!? 現実で!? まんまキャプテンアメリカじゃん!?」
「ふっふっふ、隠れて練習してたんだぜ。大事なのは想像力で、後は体が勝手にやってくれる」
「魔術すげえ!」
「このっ……変な手品見せやがって」
物理法則を無視した如く攻撃に動揺する残人。しかし引くことはせず、何がなんでも仕留めるという殺意がより強まっていた。
「もう容赦しねえぞ!」
獣の群れが奮起する。
「さあさあ、ゴミ掃除だ!」
「はいよボス!」
────
決着は3分でついた。
「おいおい、弱いな」
「歯応えないねー」
もれなく不良たちは地面に倒れ伏していた。俺が半分、桜楽がもう半分を平等にのした。別に重軽傷は負っちゃいないが、数分は起きてこれないだろう。
それにしてもあまり迫力がなかった。こっちが魔術の盾を持っていたとはいえ、少し拍子抜けをする実力だった。
「まだこんな半端な奴らがいるのか」
「蛇天愚隷羅の連中が懐かしいねえ」
「まいいや。さて、話せるだけ話してもらうぞ」
「うっ」
恐らくリーダーである山内を無理矢理起き上がらせる。
「せ、正義のヒーロー気取りかよ」
「少し前に似たような大義掲げて同じことしてたけど、今回は違う。話を訊きたいって言ったろ?」
「何の話だ?」
「最近、妙に強い奴にぶっ飛ばされて、何か命令されたってことなかった?」
「……俺はねえけど、寝てる奴らの何人かはそうだよ」
素直に答えてくれた。優勝劣敗の服従が短い期間で形成されたのだ。
「命令の内容は?」
「女とその協力者を探してるって。後は言葉を周りに言いふらせって」
「なんて? 女の名前は?」
「グウェン=ロザリー。そいつに、逃げれば協力者を殺すって……」
概ね桜楽の言ってた通りだった。
「そいつどんな姿してた? 性別は? 喋り方は? 名前は?」
「こまけえな。男だよ。オレンジ髪だったかな……名前なんて知らねえ。一方的だったらしいからな」
「じゃあ俺たち襲ったのはなんでだ? そのグウェンって奴と協力者の背格好と似てたからか?」
グウェンのことは知らないフリをすることにしようと、桜楽と目を合わせて合意をした。
「特徴なんて知らされてない。いや、正確には……グウェン=ロザリーは美人な奴だって」
「は?」
美人? たった2文字?
「ちょっとアバウト過ぎじゃない?」
「知らねえよ。そう言われたって。だから隣にいたお前が協力者じゃないかって思ったんだ。情報を渡せば金をくれて、見つけて引き渡せばさらに倍やるって。これで全部だ」
嘘をついているようには見えなかった。嘘にしても馬鹿みたいな話だった。
「美人て……」
「それで私を狙ってたのかー。私ってばかわいいからね~」
「人探しにしては情報が弱すぎる。一体何考えてんだ……」
「てかお前ら、そんなこと知って何する気だ?」
やはり気になるのはそこか。でも答える義理はない。
「あんたらには関係ない。その不審者に言われたことは全部忘れろ。次別の誰か襲うような真似したら、今度は再起不能にするからな」
「春喜もっとヒーローっぽい言い方しようよ」
「うるさい」
そんな生優しい言葉でこういうカスたちは言うことを聞かない。それに話を聞いて、不安要素が1つ生まれた。
美人な女性がグウェン=ロザリーという認識。実際間違っちゃいないけど、それだと範囲が広すぎることになってしまう。美人な女性なんて何人いると思ってんだ。
桜楽に危害を加える輩も出てくる。まあ桜楽なら自分でもなんとかなると思うけど。でもあの人が気がかりだった。
その時、ポケットに入ってた俺のスマホが震えた。一度のバイブレーションではなく、連続して来た。
「なんだ……?」
取り出して画面を見ると、電話の着信だとわかった。名前は哀川栞だった。
「先輩?」
電話をしたことは何度かあった。とりあえず電話に出てみる。
「もしもしせんぱ──」
『春喜くん! お願い助けて!』
普段は穏やかな先輩の声が、この時は死に物狂いな勢いがあった。荒い息遣いから今は走っているのが想像できた。
「先輩? どうしたんですか? 今どこにいます?」
『大学出てすぐの小道で。はっ! こ、来ないで! きゃっ──』
電話が切れて先輩の声が聞こえなくなった。
「先輩! 先輩!」
「ど、どうしたの春喜?」
「わからん。何がなんだか」
もう一度電話をかけてみる。しかし繋がらなかった。
「マジかよ」
早速不安が的中してしまった。




