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ヒーローがいない世界  作者: 坂田リン
第2章:二人目
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訓練④・出撃



どうせならグウェンの食べたい物にしようと桜楽が言って、グウェンは近くにあった牛丼屋を指で示した。もっと高くてお洒落な店でも良いと伝えたが、グウェンはここで良いと言った。


レイトショーの時に夕食を安く済ませようと、桜楽とよく牛丼屋に入っていた。注文は5分も待たないで出てきた、流石牛丼屋。ノーマル牛丼大盛りを美味しい美味しいと爆速でかきこみ、俺と桜の牛丼がまだ半分残ってる状態で完食した。そしてさっき観終わった映画のどの部分が面白かったをノンストップで喋った。


「──で、私はそこが1番面白いと感じたの!」

「めっちゃ喋るね」

「アイアンマンの時より口が達者だぞ」

「だってだって、感じてほしいんだよ! こう、よくわからないけど、面白いと思った気持ちを共有したい!」

「「めっちゃわかる〜」」


次元を越えし共感。俺は桜楽と一緒に観てきた映画は、大体が同じ面白いを感じていた。でもたまに意見が食い違い、ありだなしだとお互いに意見をぶつけ合うことがあった。


その時の気持ちは、自分が感じた面白さを相手にも感じてほしい物だった。「確かにそれはそうかも」と、桜楽に言ってほしい。意見の押し付けになってしまうと思うけど、俺も今のグウェンと似たように話に熱を帯びていた気がする。近しい人間には、同じ気持ちになってほしいんだ。


でも俺は経験者だから知っている。人の意見は中々変わらない。


「でもなあ、登場した怪獣たちが想像してたより小さかったんだよねえ。ハリウッド版ゴジラくらいデカければ良かったのに」

「ランペイジの方が面白かったんだよな」

「それ思った! 他の作品と比較するのは野暮だけど、似た系統の作品とは比べちゃうよね〜。私的には、最後はもう振り切ってパシフィックリムみたいにドデカロボと怪獣戦わせろって思った」

「伏線もなしに出たら笑うな」

「でもあの世界だったら作れるでしょ。メカゴジラみたいなさー」

「ランペイジ? パシフィック?」


グウェンは困惑していた。いかんいかん。知らない映画を会話に挟み込むのは良くなかったな。


「どっちも似たような映画なんだ。怪獣が出てきて、銃火器とかロボットで人間側が対抗するの。グウェンと俺らの感想が違うのは、今まで観てきた映画から影響を受けてるからかもしれないな。それが全部とは思わないけど」

「でも、あの妹さんが死んじゃう場面は泣いたでしょ?」


グウェンが言っているのは、映画のクライマックス直前のシーンだ。主人公をサポートするメインキャラの兄妹がいたんだけど、その妹が兄が怪獣に殺されそうになる所で身を挺して守るんだが、致命傷で死んでしまったのだ。兄妹はイケメン俳優と美人女優で華もあり、2人が口を開けば暗い世界観にも太陽が照らされた。だから死んでしまった時は悲しいという感情は湧いた。湧いたんだが…………


「うぅ……私は……今でも思い出すと……ぐすっ……涙が出てきそうで……」

「いやもう出てるよ」


グウェンほどではないと断言できる。誤解を生みそうだから泣かないでほしいんだが。戦いの時より泣いてない?


「確かに悲しかったけど、泣きゃしなかったな」

「後もう一押し欲しかったね」

「2人の薄情者! 感情欠如! 甲斐性なし!」

「甲斐性関係ないだろ」

「涙腺が締まりきってるんじゃないのか!?」

「そんなことないさ」


俺はむしろ涙腺が緩い人間だと自負している。


「俺なんて、中1の頃に全身の水分が枯れるくらい泣いたんだぜ? まあ映画で泣いたんじゃないけど」

「へえ、そんなことがあったの?」


口に出したら記憶が蘇ってきた。別に忘れてたわけじゃないんだが。多分30年経っても、あれ(・・)を忘れることなんてできない。グウェンの出会いがヒーロー(良く言い過ぎか?)へのきっかけだとしたら、あれは俺が前に進む(・・・・)ためのきっかけだった。


「女の子の前で、赤ん坊みたいに泣きじゃくったんだよ。びーびーみっともなくって……あー今思い出したら恥ずかしくなってきた。中学になってまであれはないな」

「そんなに?」

「黒歴史だよ。情けなかったな。でも……俺にとっては必要なことだった」

「泣くことが?」

「ほら、涙ってリラックス効果あるとか言うじゃん。辛いこととか……苦しいこととか……心が締め付けられることとか……そういうのを吐き出して、正気にならなきゃいけなくて……」

「それって……どういう」

「ごめん、話が逸れた。そろそろ行こう。色々買いたい物あるんだろ、桜楽?」


今日は楽しむ日なんだ。せっかく楽しく映画談義に花を咲かせていたのに、重い話になるのは勘弁だ。


「うん……じゃあ行きますか」


少しの間だけ、桜楽の顔は泣きそうな顔をしていた。



         ────



牛丼屋を出た後は、3人で遊びを堪能した。最初に言っていたように、グウェンが好きな服や香水を買ったり、ゲーセンでクレーンゲームをして、最後にはカラオケも行ったりした。桜楽が歌う米津玄師の感電に2人で拍手を送った。


グウェンは1つの出来事に対し、大変満足した様子を俺たちに見せていた。桜楽と並んで歩いている姿は、友達同士の美少女JKが休日に仲良く遊んでいるとしか思えないだろう。異世界から来た住人なんて思えるはずがない。


グウェンに来月に公開される映画の一覧を見せてみたら、「次はこれ観たい!」と予告編も見てないのに浮き足立っていた。なんの変哲もない会話だが、俺は心の中で安堵した。グウェンは未来(・・)の希望を俺に伝えてくれた。


明日も生きようとしていることが、俺は何よりも嬉しかった。今日は100点どころか198点を自分にあげたい気分だ。え? 後2点は? 残念ながら、これはグウェンの問題じゃないんだな。


「顔が少し暗いぞ」

「え?」


問題は桜楽の方。グウェンがトイレに行ってる今が話すチャンスだった。


「昼食べてから、顔が時々泣きそうになってる。余計なこと口にしちゃったか?」

「いや……」

「でもこんなこと言うのはアレだけど、泣くとしたら俺じゃないか? 過去の辛い記憶思い出したとかで、鉄板だろ?」

「じゃあ春喜はなんで泣いてないの?」

「そりゃ泣き尽くしたからな。3年前に、お前の前(・・・・)で」


俺は昔、癇癪を起した子どものように大泣きをした。それも隣にいる桜楽の前で。泣くつもりなんてなかったんだけど、俺は我慢ができなかった。


「私はあの時を思い出すと……ちょっと涙腺が緩んじゃうよ」

「泣きやすいのは桜楽の方だったか」

「だって、あの時の春喜は……ああ、ごめん。昔の話はあまりしない約束だったよね」

「……実は最近、思い出すことが時が何度かあった。あの変態に殺されそうになった時と…………夢にも出てきた。冬真(・・)が奥で笑ってたんだ」

「そうなんだ……」


桜楽は反応しづらそうな様子だった。そりゃそうだ、俺でもそうなる。


「迂闊な発言悪かった。昔じゃなくて未来に目を向ける。そう約束(・・)したもんな」

「……うん」

「それにあまり思い出したくないしな。あの時は俺もどうかしてた。たがが外れてたというか、病んでたし、みっともない姿を記憶に残したくはない」

「確かにあれは少し異常だったかもね」

「うぐっ、直接言われると刺さるな」

「でも私は嬉しかったよ」

「泣くとこ見て興奮してたの?」

「誰がサイコパスじゃい。私は特別になれたのが嬉しいの」

「特別?」

「私だけが知ってる、好きな人のマル秘ポイント」


好きな人、と口にした桜楽は自分の言葉に照れたのか、頬を赤く染めていた。そんな桜楽が世界一可愛く見えて、恥ずかしくなって片手で両目を隠す。


「……不意打ちやめろ」

「あはっ、春喜さんはかわいいねぇ」

「子ども扱いすんな」

「また泣いてもいいんだよ。私は何回でも受け止めてあげるから」

「何か今のエロい」

「雰囲気壊すな」


涙腺ではなく表情筋を緩ませ、2人で大きく笑った。これで足りなかった2点が手に入った。万事解決した所で、グウェンがトイレから帰ってきた。


「お待たせ。いやー春喜と桜楽の家の時も思ったけど、こっちはトイレも綺麗で住めそうなくら……ん? 何かあった?」

「いや」

「何も」


今日は最高の1日だったな。



         ────



「さーて。どうすっかな~」


背中に龍、胸に髑髏が描かれた何ともインパクトの強いシャツを着こなし、歩く度にジーパンに付いたチェーンがじゃらじゃらと音を鳴らす。がさついた男の薄橙色の髪は、日中の時間帯では少し目立っていた。まさか、彼が異世界からの住人だなんて思う人間は、道中に1人もいないだろう。


クグツに従う直属配下(サーバント)の1人──グローリは自分の与えられた役目をどう果たそうか考えていた。


「クグツ様は方法は任せるって言ってたしな。気負わなくて良いって言ってたけど、心は休まらねえな」


グローリはコンビニに入り、クグツからもらった金でからあげを購入し、設置されてあるフリースペースに座り自らの口に運んだ。


「うわ、うまっ。マジでこの世界最高だな。でもしんどいぜ。じゃんけんで勝ったのは嬉しいんだけどなあ、エレーナ姉さん怖ぇーよぉ」


独り言の嘆きが止まらない。グローリは出かける間際、エレーナに圧をかけられた。「クグツ様が直々に与えてくれた個人任務、それも私から奪ったのだから、もし失敗したら覚悟しなさい」と、ミスれば殺されるんじゃないかと思う気迫をエレーナから感じた。


「クグツ様関連だと視野が狭くなるんだよなあ。ま、頑張るしかねえか。んーマジでどうすっかな~」


グローリはから揚げを頬張りながら、作戦を考えようとした。グローリは頭を使うのが苦手だった。シャインやルミナスに頼ろうともしたが、クグツ直々の任務ということで張り切っていたグローリは、自分の力だけでこなすことに執着していた。


「きっとクグツ様だったらパッと思いつくんだろうなあ……ん?」


グローリはコンビニのガラスの向こうに、気になる4人組の男子を見つけた。全員制服を着ていて、近くの学校の帰り道だった。友達4人で仲良く下校している背景が考えられるが、どうもそんな様子じゃなかった。


3人の男子は楽しい様子で会話をしているが、真ん中に挟まれている眼鏡をかけた男の子は下を向いて、居心地が悪そうな雰囲気だった。


「俺もクグツ様を真似てみっか」


グローリはアイデアを思いついた。から揚げを全て喉の奥に押し込み、偶然見かけた4人組を尾行し始めた。やがて彼らは人気のない路地に足を踏み入れた。


「おい、早く出せって」

「わ、わかったよ……」


黒髪の1番背の高い男子が、眼鏡をかけた男の子を壁に押し付け何かを要求していた。鞄から財布を取り出し、お札を何枚か取り出すと、他の3人の内1人が無遠慮に奪い去った。


「へへっ、ありがとな。やっぱ持つべき物は友達だな」

「なんか少なくね?」

「これ以上はもう……自分も買いたい物が」

「おいおい、俺たち友達だよな? 友達同士は助け合わないと、なっ!」

「あ、返して!」


1人が財布ごと奪い、他の2人が眼鏡の男子を押さえつける。どう見ても恐喝にしか見えない状況を、グローリは陰で眺めていた。


「例外はいるって、クグツ様も言ってたよな」


不敵な笑みを浮かべ、グローリは4人の前に出る。


「おい、誰か来るぞ」

「あ? チッ、見られたか」

「おいテメェら、ちょいと俺の奴隷になれや」


グローリの脅しに3人は動じない。むしろ正義ぶった乱入者に呆れ嗤いを作っていた。


「おい、やっちゃえよ」

「あーあ、あいつかわいそ」


学生にしては屈強な体つきをしている男子がグローリの前に出てくる。


彼らがグローリを未だに馬鹿にしているのは、理解できていないから。自分と相手の力の差を。


「偽善者野郎、後悔させて」

「おそ」


凡庸な彼らはグローリの動きを視認できなかった。グローリの左手が学生の側頭部を鷲掴みにし、そのまま横にある壁に叩きつけた。


「え?」

「魔術使わなきゃいいだけだもんな!」


残り2人の間合いを詰め、1人を拳で昏倒させ、もう1人を回し蹴りで最初の奴と同じく壁に叩きつけた。抵抗すらさせる時間も与えず、グローリにとって準備運動にすらなっていなかった。


「ぐっ……うぅ……」

「な、何……が……」

「おい、そこのなよっちいの。金拾ってどっか行け」

「は、はい!」


眼鏡の子はグローリの横を通り過ぎ、大通りに出て行った。


「さてと」

「誰だよ……急に割り込みやがって」

「クグツ様に迷惑かけちゃいけないって言われてるからな。でも、お前らみたいな屑なら問題ねえな」

「この、殺す!」


屈強な学生は、自慢の剛腕を残りある力全てを使って振りかぶる。グローリは避けようともせず、ただ左腕でガードする姿勢を見せる。拳が腕に直撃した時、まるで金属にぶつかった(・・・・・・・・)ような音が響き、男の指のどれかが折れていた。


「ぐわあ! いでぇえ!」

「デケェ声出すんじゃねえよ」


グローリの拳が腹に突き刺さり、学生は意識を失った。目を開いている者はこの場に2人だけとなった。


「ま、待って! 殺さないでください! お願いします!」

「はあ? 殺す? んなことしねえよ。奴隷の役割が果たせねえじゃねえか」

「ど、奴隷? 一体何を……?」

「少し頼みたいことがあってよ。断らないよな?」


グローリが自分より格上の立場の人間であることを理解したいじめっ子は、首を縦に振るしかなかった。


「よーし、良い子だ。お前らのお友達連れて、できるだけ広範囲に伝えてほしいんだよ。消えた少女のこと……ああ、これじゃ伝わらねえか。確か……名前なんだっけな。ああ、あれだあれ」



「グウェン=ロザリーだ」



グウェンが初めて映画館に足を運んだ、5日後のことだった。



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