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ヒーローがいない世界  作者: 坂田リン
第2章:二人目
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訓練③

 


「さあ、訓練頑張っちゃうぞー!」

「訓練……」

「いつもと同じじゃん」


日曜日、朝。俺、グウェン、桜楽は、自宅から離れた映画館に遊びに来ていた。いつもお世話になっている映画館は、名無しの傭兵(ノーバディ)とのドンパチのせいで施設が無期限に閉鎖されているため使えない。


だから少し遠くはなるが、電車を使って2番目に近い映画館の方に来ていた。言わば第二拠点である。第一拠点では上映されない映画とかが、第二拠点では上映されているケースとかがたまにあるので、俺と桜楽がよく利用させてもらっている。


今日はグウェンも加えて3人で映画を見に来た。日常のよくある友達同士の休日の1日のはずなんだが、桜楽は頑なに訓練と言い張っていた。


「何がスペシャルプランだ」

「そこの春喜くん。まだ私を疑ってるようだね。これは想像力の発展だよ。まだ見ぬ名作を取り入れることによって、春喜の天位魔術リーサルウエポンを強化する。能力が想像力に左右されるなら、想像力を豊かにすればいい! そして同時に、グウェンさんの願いを今日、ここで叶える! これぞパーフェクトプランなのだ!」


スペシャルからパーフェクトにグレードアップした。


桜楽の言わんとしてることは理解できる。0から何かを想像できる人間はすごい。俺は銃を思い浮かべろ言われれば、真っ先に思いつくのはハンドガンだ。でもかっこいい銃を思い浮かべろと言われると、思考が鈍る。だから、映画とか漫画で見たことのある既存のカッコいい銃を思い浮かべる。発想力が乏しいんだ、俺は。


凄腕漫画家とかは、一からキャラクターのデザインとか、武器のデザインも考えてしまうからすごい。エイリアンのゼノモーフのデザインを考えた人たちは、人生を5回はやり直しているかもしれない。自分にしかない物を生み出したい気持ちは無くは無いが、俺は凄腕クリエイターじゃない。外部からインプットしなきゃ『何か』は作れない。俺が構築した天位魔術スーツが、マーベルやらプレデターやらに似てるのは、俺が外部からインプットしたパーツを組み合わせてできたのだと今では思ってる。


スーツの武器であるキューブをうまく使いこなすには、想像力の増築が必要不可欠。だから桜楽の意見も理解できる。できるんだが……


「桜楽、絶対私情挟んでるだろ」

「てへっ、バレた?」

「今日の映画、半年くらい前から期待してたやつだし」

「覚えてたんだ」

「そりゃあんだけオススメさせられたらね。まあでも、良いんじゃない。後者の目的は俺も賛成だし」


桜楽が口にした『グウェンの願い』。俺も少し前にグウェンに提案していた。



【今度一緒に行ってみる?】

【どこに?】

【映画館】

【ホントに!】



一緒に映画館に行く約束をしていた。桜楽が知ってるのは、多分グウェンがどっかのタイミングで俺との会話を話したんだろう。いつにしようか考えていたけど、今日は約束が果たせそうで良かった。


「でしょお? それに服とかグウェンさんに合う美容品とかも買いたいしさ。私のばっかじゃ味気ないし」

「何から何まで、私のために本当にありがとう。どうお礼をすればいいか……」


桜楽の服に身を包んでいるグウェンは、嬉しさで瞳を潤ませている。俺たちへの感謝に困っているようだった。映画観るのにこんな感謝されるの初めてだな。


「おいおい、泣かないでくれよ。どうせこれから、映画なんていくらでも観れるんだから」

「その通りだよ。今は感謝よりも楽しみを優先してほしいな」

「……ありがとう。全力で楽しむわ」

「まあ映画の出来次第だけど」


こればっかりは神頼みしかできない。


「グウェンは本当に今回の映画が初めての映画館で良かったのか?」

「ええ。確か──」

「『ロストソサエティ─最後の生存領域─』。モンスターパニック映画じゃい!」


今日観る映画のタイトルだ。あらすじは何だったかな? 行き過ぎた環境汚染によってゴジラ並みに巨大な怪獣が大量発生して世界は滅ぶ寸前で、人類最後の砦となってる場所を主人公たちで食い止める。確かこんな感じだったか?


「タイトル、ロストワールドの方が良くね?」

「それじゃジュラシックパーク2でしょ?」

「そゆこと?」

「今回の映画は私が期待してたという私情も挟んではいるが、ちゃんとした理由もある。映画館で映画を観るならば、映画館でしか味わえない興奮を得たいと常々思っているのですよ」

「誰目線?」

「ありがちなラブコメ映画とか、考えた奴ギャグセンス終わってるコメディ映画は自宅で観ればいい!」


ユーチューバーだったら確実に炎上してるこいつ。


「ど迫力で、アグレッシブで、観てると体温が熱くなってくる映画こそ、映画館で観るべき物だと思いませんか?」

「俺に振るなよ。気持ちはわかるが」

「ほらね、グウェンさんもそう思うよね?」

「私は初めてだからなんとも……」

「つまり、モンスターパニック映画は、映画館で観てこそ最高の興奮を得られるってことよ!」


グウェンにとって初めての映画館。私情があるとは言え、グウェンに心から楽しんで欲しくて桜楽も選んだんだろう。


「後は頭からっぽにして観れる」

「それもある。付け加えると、今上映してる映画の中で他にめぼしい作品がありませんでした」

「先月に観たいやつは殆ど観たしな」

「でも私は賭けてる! 今日の映画は間違いなく面白い! では行くぞ諸君!」

「お、おー!」


探検隊の隊長のように先陣を切る桜楽の後ろを付いていくグウェン。うきうきしている笑顔からは、命を狙われている標的とはとても思えない。でもこれでいいんだ。


ずっと張り詰めてたら息が詰まる。グウェンには、今日を思う存分楽しんでもらえたらと思う。


「桜楽には後で礼を言わなきゃ」



         ────



映画は115分で終わった。明かりが点いて人のざわめきが復活して、ぞろぞろと観客が出入口から外に出て行っている。


「出ますか」

「行きましょうー」

「あむっ……ちょっと……あむっ……待って」


咀嚼音が言葉と入れ替わりで聞こえてくる。リスのように頬を膨らませたグウェンが音の主だった。


「まだ残ってんのか」

「やっぱり1人でLは大きかったんじゃない?」

「そんなこと……むしゃむしゃ……ない。まだいける」


頬の膨らみの正体はポップコーンだ。今まで地球の食事に異常な喜びを示していたグウェンが、ポップコーンに食いつかないはずがなかった。俺と桜楽はいつものようにポップコーンコーンセットを買って、グウェンはドリンクとポップコーンの両方Lサイズを頼んでしまった。


「途中から夢中になって……もぐっ……食べるのを忘れてた」

「持ち帰れるからそうしない?」

「できるの?」


桜楽の提案で残ったポップコーンは持ち帰ることにして、人が殆どいなくなったシアターを後にする。


「ポップコーン美味しかった!」

「おー映画館出て初感想がそれは初めて聞いた」

「あのキャラメルがくせになりそう。毎日のお菓子がこれでも問題ないわね!」

「糖尿病になるぞ。で、肝心の初映画館の感想は?」

「めっちゃ最高だった!!」


好印象の第一声が聞けた。流石銀髪美少女、全国の男子を昏倒させる極上の笑顔を見せてくれているが、口周りについているポップコーンのカスが年相応の女子のそれまでに質を落としていた。


「あんな興奮久々よ! 最後の方は内容なんてどうでもいい良かったわ! もうデカい怪物同士が戦ってるだけで満足したわ!」

「ははっ、俺も前にそんな感想言ってた気がする」

「でもさあ、グウェンさんはアース2で怖ーい魔物たちと戦ってたんでしょ? 画面の中の架空の怪物なんて飽きてるんじゃない?」

「そんなことはないよ。殆どの大型の魔物は、上位魔術を1発浴びせれば倒せたし、戦闘に臨場感なんて感じたことはなかった」


強過ぎるが故の気持ちの冷めってやつか。グウェンは、魔術を戦争で行使するのを嫌っていたっていう理由もあるんだろうな。


「それに人間目線じゃ見られない視点からの迫力は、たとえ私の世界でも味わうことはできないね」

「確かに、カメラワークなら自由だしね」

「ほら中盤の、主人公たちが怪獣に追い回されるシーン。私はあんなヘマしないし」

「グウェンなら消し炭か」

「あの感覚は、第三者としての視点だから楽しめた。体がヒリヒリするスケールとハラハラドキドキする展開。何より今回の映画は、映画館というデカい画面だからこそ十分に楽しめた気がする。多分スマホやテレビだったら、ここまで楽しめなかったと思う」


今日欲しかった言葉が聞けた。映画を楽しんでほしかった思いはもちろんだったが、映画館を堪能してほしい気持ちがより強かった。この世界に来たからには、もっと楽しいことを知ってほしかった。


「ちなみに、5段階中の評価だったらどう?」

「5!」


最高評価獲得。もう今日の目標は達成したかな。


「それは何よりだ」

「ハルキとサクラは?」

「「え?」」


唐突の問いに俺と桜楽の反応が遅れる。別におかしなことはなかった。俺がグウェンに総合評価を訊いたから、グウェンも俺たちに訊いてきた。よくある会話のキャッチボールの一種だった。


「サクラから聞いた。2人はいつも新しい映画を観た後には、お互いに評価を言い合うって」

「まあ……そうね」

「うん……」

「2人は面白かった?」

「「……」」


俺と桜楽は顔を合わせ沈黙した。


「あ、あれ? 2人とも?」

「いや、おもし……ろかったよ。なあ?」

「うん……まあ……はい……」

「な、なんで目を逸らすの? よくわからないんだけど……?」

「……グウェンさん。正直に言っていい?」

「う、うん」

「えっとね、普通だった」


言いづらかった2文字を桜楽がついに口にした。


「普通?」

「いやーグウェンさんが好印象の感想言ってた手前、言いづらくって。映画館出た時に春喜の顔ちらって見たら、あこれ同じこと考えてるなって思ったのよ」

「言うのも野暮かなって思って。つまんなくはなかった。場面ごとに見れば面白い所はあるし、最後も少し盛り上がった。ただまあ……3.4くらいかな?」

「右に同じ」


いつもなら、4.0を超える評価だった映画は、スクリーンを出る直前にどっちかがテンション上がって面白かったと口に出てしまうんだが、桜楽の微妙な顔を見て察しがついた。普通の面白さだったらあんま会話盛り上がんないんだよなー。今まで桜楽とは何度かあった。


訊かれてしまった以上、嘘をつくわけにはいかない。俺たちの発言にグウェンは、理解し難いと顔が言っていた。


「な、なんで!? 面白かったじゃん! 私はポップコーンに手が伸びないくらい熱中してたのに!」

「気持ちはわかるけど……」

「まあまあ、話の続きはどこかで食べながらやりましょうや」



桜楽の言葉に俺とグウェンは同意する。



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