訓練②
「よし、やるぞ」
「さあさあ、変身シーンをどうぞ!」
桜楽がうきうきした様子でスマホを構えている。見せ物じゃないってのに。まあ楽しむ分にはいいか。グウェンは真剣な表情を保ち黙って見守っている。
家からすぐ近くにあるブランコしかない公園に俺たちは集まっている。なぜかと言うと、魔術の訓練をするためだ。それも単なる魔術ではない。俺だけが持つ特別魔術──天位魔術の訓練に入る。
魔術を行使すれば敵に居場所がばれてしまう懸念がさっきまであったんだけど、それはもう解決した。だから心置きなく俺は実践してみることにした。
「まずは……」
俺は意識を集中させる。やるぞっていう意識だ。テスト勉強を始める時に意識を切り替えるように,
息を吐き、肩の力を無くして、魔力を循環させる。魔力の流れなんてわかるもんなのかと疑っていたけど、これが案外、持ってみれば少しだけど理解できた。
脳に魔力を流すイメージを体の中で実行すると、俺の右手首に黒色のブレスレットのような物が装着された。
「おーなんか出た!」
「前に一度、無意識にこれが出てきた。多分これが、スイッチの役割なんだろうな」
起動するのは今回が初めて。スマホの画面をスライドさせるように、ブレスレットの表面を撫でる。するとブレスレットは発光した。そのまま内側から川の流れのように、俺の服の上から黒と赤の何かが覆っていく。右腕、首、頭、左腕、両脚、指先に至るまで俺の皮膚を外部から遮断した。視界が暗くなったのは一瞬で、すぐに明るさを取り戻したが、その時には桜楽が30cm手前の所まで近づいて来ていた。
「ちょっ、近い」
「おおおおおおおおおおおおおおっ!! すごい! これはすごい!」
漫画のキャラみたいに瞳をキラキラさせている。余程興奮しているのか、俺の周りをグルグルと回転してまじまじと眺めている。
「変身の仕方はアイアンマンのナノテクみたいなやつなんだ。いや、ヴェノムの方が近い? 色味はデアデビルに似てるかなー。質感は割と柔らかめ。顔はやっぱりバットマンかプレデターよりかなー。でもかっこいい。私的にはガチャガチャ変身するアイアンマンが好きだけど、ナノテクの変身も一時期何度も見てたからなー。いやマジテンション上がる! マスクどうやって外すの?」
「んっと……」
そう言えばあの時も……外れろって願えば外れるのか? と思ったら、カシャンと音がして視界がいつも通りになった。マスクは自動的らしい。
「おおおおおおおおっ!!」
「うるさい」
「やっぱりナノテクなのか!?」
「興奮がすごいなおい」
「そりゃそうだよ! スーパーヒーローの変身シーンが見られたんだから!」
「ヒーローって」
確かにスーツはヒーローの醍醐味ではあるが、俺はまだその段階には達していない。クオリティの高いコスプレの方がまだ正しいかな。元がないけど。
「俺まだヒーロー活動してないけど」
「これからするんだって。でもあれだなー。スーツってさあ、作る過程をも楽しむもんじゃない? アイアンマンしかりスパイダーマンしかりデッドプールしかり。あの一からの工程が無くなったのは痛いなー」
「それは確かに」
「早くできて良いんじゃないの? ソー・オーディンソンみたいに」
「それはそうだけど、あの出来上がっていく過程を見るのが好きなのよ。グウェンさんもそのうちわかるって」
ポンポンとグウェンの肩を叩く。お前もそんなにわかってないだろというツッコミは置いておく。
「で、今更もう遅いんだけど……これ本当に大丈夫だよね?」
「大丈夫。これは根拠のある願望だから」
心配になるが、こんな自体はグウェンでも初めてだから仕方ないんだろう。
【他の魔術師だったら、こうはいかなかった。ハルキだから可能になった】
グウェンの言っていた通り、俺だったから、今こうして俺は魔術を使うことができている。厳密に言えば、天位魔術が訓練を可能にしていた。
グウェンの話を要約すると、通常魔術師は、気配探知なしでも魔力の起こりを探知できる。魔力の起こりがあるということは、誰かが魔術を発動させたと同意義。しかし単純な魔力の感知では、その魔術が何なのかを特定することはできないという。
例えば、『魔術を起動した』ことはわかっても、『燃火(火の魔術)を起動した』とはわからないらしい。なら気配探知なら全て筒抜けなのかと言われると、そうではないらしい。
気配探知には、設定が必要になる。
【姿、形、髪型、心音に至るまで条件を設定して、人や魔物を見つけ出すのに重要な魔術の一種】
普通に探し物を見つける時も、その対象の情報が何もなければ探しようがない。バッグを落としたと言われ探そうとしても、どんな色だったか、特徴的な形をしているか、キーホルダーなどを付けているかなど、無くした本人に確認を取るだろう。気配探知もそれと同じ仕組みだという。
氷雪(氷の魔術)を自分が使えなければ、たとえ100m先で他人が氷雪を使っていても、自分の気配探知ではそれが氷雪なのかの特定ができない。めちゃめちゃ簡単に言えば、自分が知らない物を探知することはできない。
天位魔術は、アース2においての既存の魔術に一切該当しない。固有で、特別で、希少で、グウェンですら使える人間を見たことがないみたい。俺しか持ち得ないということは、俺以外の他人が知ることはできない。
だから、俺の天位魔術は敵さんに存在を探知されない。だがそれでも魔力の起こりは隠し通せないらしいんだが、それはこの話の前に出た『力の隠形』が解決している。
起動を消して、存在を消す。以上のことから、俺は敵さんから完全な透明人間になった、らしい。
「春喜がまさか卍解を習得してるとはね」
「どんな斬魄刀だよ」
「やっぱりあれかな、主人公補正ってやつだな」
「そりゃどうも」
「これで準備はオッケーね。まずはどんな能力なのかをきちんと理解しないと」
グウェン先生の指導が始まった。あの時変身した時にはそんなの確認する暇なかったからな。真面目にやりましょうかね、と言っても……
「具体的な能力か……まず体が軽くなった気がする。いつもよりも感覚が鋭くなって、スゲー速さで動けるし、拳を振るうのだって普通の50倍くらいの強さになる」
「トムホランドと同じこと言ってる」
「それは魔術の副次的効果ね。天位魔術の一部にすぎないわ」
「やっぱ能力と言われたら、これだろうな」
右腕の装甲に装着されている5つのキューブ。俺はその1つを親指と人差し指で摘んで、カシャンと音を立てて取り外した。
「何それ? サイコロ?」
「見てろって」
あの時と同じように、俺は願ってみた。熱望は俺の体の中の魔力を滾らせる。すると、俺の願いを反映させてくれたように、黒いキューブは何らかの意思を持って発光しながら変形する。やがて、四角だった物は、一個の盾として俺の手の中に収まった。
「どうよ?」
「おおおおおおおおおっ!! キャプテンアメリカだ!?」
わかりやすく興奮する桜楽。良い反応するわー。
「こういう風に、自分が頭の中に描いたイメージみたいなもんをこのキューブは再現してくれるのよ。想像した物を作れるって感じ?」
「じゃあその盾をさ、また別の何かに変形できるの?」
「やってみるか」
俺は再度チャレンジしてみる。今度は槍だ。鋭利で危険な、ロンギヌスの槍みたいな。またもやキューブの形だった盾は発光して形を変え始め、中世の騎士が使う槍みたいな物ができた。
「こんなもんよ」
「変形する所はいつまでもみていたくなる魅力があるね」
「ハルキの天位魔術は想像の具現化か……よし、もっと色々試してみよう」
「ほいきた」
俺はやれる限り変形させてみた。剣、小刀、鞭、籠手、斧、銃、メリケンサック、ブーメラン、トンファー、三節棍。とりあえず武器になりそうな物を作ってみたけど、概ね要望通りの物ができた。
「それ実際使えるの?」
「剣はスパスパ使えたぞ」
「銃を試してみよう」
桜楽が地面に転がってるデカめの石ころを指差した。キューブを刑事ドラマでよく見るS&Wの拳銃に似ている形に変形させ、照準を合わせ引き金を引く。すると映画でよく聞く銃声が鼓膜と空気を震わせ、石を貫き地面にまで届いていた。
「やばっ、マジもんだこれ」
周りに響くな。あんまり外で撃たない方が良さそうだ。
「弾丸はないんだね」
「魔力でできてるからか?」
「流石希少の魔術なだけあるわね。汎用性もずば抜けてる。もっと理解していけば、色々な場面に対処できそう。作れるのはハルキの想像力に左右されるってことなの?」
「どうなんだろうな」
現状は、俺の願いがそのまま魔力を伝って具現化されてるって能力だな。剣が欲しいなら剣を。銃が欲しいなら銃を。至ってシンプルだ。
「例えば……」
頭で思い描く。S&W型の銃はさらに変形し、銃は銃でも、ストームトルーパーが持ってそうなレーザー銃が出来上がった。
「おー多種多様だね」
「確かに俺の頭の度合いかもな。でもそれなら安心してくれ。映画、アニメ、漫画。あらゆる創作物から生まれたガジェットを俺の頭にインプットしてある」
「中1の夏休みに、ニ徹してミッションインポッシブル全部見たもんねー」
「あれはやり過ぎた。とにかく他の魔術が使えない以上、もっともっとこの魔術の理解を深めるぜ」
時間がいつまであるかわからないけど、やれることは全部やる。
「備えあれば憂いなしだ」
「よし! 今私はスペシャルプランを考えましたぞ!」
「え?」
桜楽が突然何か言い出した。
「春喜の魔術を進歩させて、かつやらなければならないことを終わらせる。我ながらグッドアイデアだね~」
「何すんの?」
てかやらなきゃならないことって何?
「明日は日曜日。みんなで遊ぼうぜ?」




