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ヒーローがいない世界  作者: 坂田リン
第2章:二人目
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主と配下③



「おおぉ!! ルミちゃんかわいい~」

「ちょっと……露出多くない?」


ホープがルミナスを着せ替えマネキンとして扱っている。少し大人向けの服を着ているルミナスは、顔を赤面させていた。


「この世界の服はいいね~。かわいい服がいっぱい。おまけに私たち女子の素材は上質! 眼福ですわ~」

「さっきから私ばっかり。今度はホープの番よ」

「え~もう少し見たいな~」


ルミナスが試着室から出てホープの手を引っ張る。


「盛り上がってるね。エレーナも混ざればいいのに」


自分の服を厳選しているシャイン。エレーナは店の隅でシャインの誘いを振る。


「私は後で。みんなのが終わってからでいいわ」

「せっかくだから選んでもらえばいいのに」

「知らない人が選んだ服なんて着たくないわ」

「店員さんじゃなくて。クグツ様にだよ」

「……」


エレーナは黙り込んだ。ちなみにクグツは今トイレに行っている。下気味に向いて隠れた顔から僅かに見える頬は、赤みが増していた。


「……恐れ多いわ」

「ただの服じゃないか。もしかして下着までって思った?」

「斬るわよ」

「冗談だよ。目が怖い」

「おいシャイン! どうよこれ!」


人の眼も気にせず豪快な声をグローリは上げる。黒いサングラスをかけ、謎の髑髏が描かれているTシャツを見に纏い、その上から龍がドカンと貼り付けにされたスカジャンを羽織っていた。


「めっちゃカッコよくねこれ?」

「まあ……うん。カッコいいんじゃない?」

「微妙な反応してんな。やっぱ色合いか?」

「いや、そういう問題じゃないと思う」

「隣を歩きたくないわ」

「エレーナ姉さんひでぇよ!」

「サ、サン……は……」


隣の試着室からひょっこり小さな少女が出てきた。みんなと同じく自分の好きな服に着替えていたサンだった。


「かっこいいと……思う」

「おお!! サンだけはわかってくれるか! ありがとうな。サンも可愛いじゃねえか」

「うぇ、あぇぁ……っ!」


湯気が出そうなほど顔をリンゴのように真っ赤にして、試着室へ顔を隠してしまうサン。


「よっしゃ! もう何着か選んで見るか」

「可愛い……可愛い……」

「良かったねサン」


シャインがサンに微笑ましい笑みを浮かべる。丁度その時、クグツがトイレから帰ってきた。


「みんな選び終わった?」

「あ、クグツ様! いやーどれも良すぎて買うのが迷っちゃいますよ〜」

「気に入った物は全部買ってもいいよ。お金ならあるしね」

「やったー!」


ホープが片っ端から気に入った店の服を手中に収め始めた。このままでは店から服がなくなってしまいそうだった。


「あれ、エレーナは見なくていいの?」

「はい。私はみんなの後で問題ありません」

「そっか。きっとエレーナなら、何を着ても似合うんだろうね」

「……そんなことありません。クグツ様の方が、きっとなんでも似合うと思います」

「僕が? まさか、そんなわけないよ。僕は服のセンスが無くてさ。だからオシャレな服なんて遠い世界の話だったし、服だって殆ど……」


会話が中途半端に止まった。エレーナが再度聞き返そうとしたが、「そうだ」と話を別の方向に逸らされてしまった。


「僕の服、エレーナが選んでくれるかな?」

「わ、私が、ですか?」

「エレーナはサンの服とかよく見繕っていたし、どうかな?」

「い、いえ、私がクグツ様のお気に召す物を選べるとは……」

「僕は何を選んでも喜んで着るよ」

「いいじゃないかエレーナ。クグツ様がこう言っているんだから」


シャインが後押しするように言うが、エレーナはまだ好意を躊躇っていた。


「嫌なら無理にとは」

「いえ! 嫌など決してありません! ……わかりました。私がクグツに似合う素晴らしいお召し物を」

「お、クグツ様服選ぶんですか?」


決意がようやく固まろうとした時、近くにいたグローリが余計な口出しをしてきた。その近くにいたホープやルミナスも集まってきてしまった。


「あ! なら私たちが選ぼうよ! 日頃の感謝を込めて」

「いいわねそれ」

「よっしゃ! クグツ様、俺たちが超かっこいい服を……」


グローリたちがそれ以上の言葉を紡ぐことはなかった。エレーナの殺意が混じった鋭い眼光が自分たちに向けられていることに気づき、『私だけのご指示を邪魔するな』と、無言の圧力は表情を青ざめさせた。


「やれやれ」


シャインは一部始終に呆れた。



         ────



「わーい! ふっかふかだあ」

「最高ね」


2人仲良くベッドにダイブインするホープとルミナス。幸せでとろけそうなほど脱力し、今にも眠ってしまいそうになっている。


「2人とも。寝るのは構わないけど、クグツ様のお話が終わってからにしなさい」

「でもエレーナさん、気持ち良過ぎるんだもん。たまに泊まるボロ宿屋とは大違いだわ〜」


クグツたちは服を調達した後、近くにあったビジネスホテルへ泊まりに来ていた。今は狭い部屋に7人全員が集まっているが、クグツは他に3室を取っていた。


「あーもうこの世界に一生住みたい」

「お気楽ね。でもその気持ちは同意」

「私、少し不安だったんだよ。みんなと一緒なのは嬉しいけど、知らない場所って怖いし。でも来たらびっくり! 臭くないし、服は可愛いし、布団はふかふかだし、物騒なこともないし……平和だし。もう最高だよ」


ホープは仰向けになり、カーテンが開いた窓の外を見つめる。


「きっとこんな綺麗な世界で生まれてたら、最初から幸せ(・・・・・・)なんだろうね」


普段の明朗快活なホープの口から溢れる弱々しい声。表情から読み取れる微かな陰は、ホープ以外の全員にも現れていた。暗い雰囲気を紛らわすように、ホープはまたはきはきと喋り出す。


「ま、早速殺しちゃったけどね」

「結局、私たちはどこにいてもやることは変わらないのよ」

「そうだよね〜。よーし、ホープちゃん張り切っちゃうよー! で、何するんですか?」

「協力者を探す」


クグツが言い放った。


「協力者ですか?」

「消えた少女はジン様の刺客を倒した。方法はどうあれ、やっぱり1人だけの仕業とは思えないんだよね」

「しかしクグツ様。仮に協力者がいたとして、それはこの世界の住人の誰かということですか?」

「少女以外に別の世界からの使者がいない限りね」

「失礼ながら申し上げますと、魔力も持たない人間が協力をした所で、役に立つとは思えないのですが……」

「僕もそう思うよ。でも、魔力があれば話は別だよ」

「……まさか」


エレーナがクグツの言わんとしていることに気づいた時には、シャインが答えを口から出していた。


「魔力を協力者に与えたんですか?」

「容器がなければ水を溜められないように、魔力がなければ魔術を使えない。なら魔力をあげればいい。単純だね」

「そんなことできるんですか?」

「別に珍しいことじゃない。僕たちが持ってる魔力は生命の根源と言ってもいい。魔力が尽きれば死ぬ。だから、どれだけ魔術を消費しても魔力が1でも残るように体が自然と働くんだけど、過酷な戦場じゃブレーキが外れて魔力が0になることがある。だから余裕がある仲間から魔力を分けてもらって、命を繋ぐケースがよくあるんだ。僕たちは経験したことはないけどね」

「でもそれは、元々魔力がある人たち同士ですよね? 魔力が元々ない人間に渡して大丈夫なんですか?」

「ウイルスではないからね。問題はないと思うよ」

「はいはいクグツ様!」


グローリがわざわざ手を挙げた。


「魔力がありゃ魔術は使えますけど、与えた直後に魔術をうまく使えますかね? 仮に使えてもジン様の刺客に太刀打ちできる力だとは思えないんすけど。一応手練れだったんですよね?」

「その意見もわかる。でもあるじゃないか。覚えたてでも一騎当千の暴威を誇る特別な魔術が」

天位魔術(リーサルウエポン)……ですか?」


部屋の隅にいるサンがぼそりと呟く。クグツは正解を示すように頷く。


「高位の魔術師ソーサラーを素人が倒すためには、デタラメな超パワーが必須になる。天位魔術なら覚えたてでも十分な強さを得られる。経緯はわからないけど、満足に戦えない自分の代わりに、知り合った協力者に魔力を与えて、それがたまたま天位魔術で難を逃れた。て感じかな?」

「中々都合がいいですね」


シャインの指摘にクグツが笑う。


「ははっ、確かにね。でも何か感じるんだ。僕が同じ(・・・・)だからかな?」

「共鳴ってやつですか?」

「おー。選ばれた者同士は惹かれ合う運命にある。なんかかっこいいですね」

「協力者を見つけられれば、自然と消えた少女を見つけることができるはず。でもこれは、あくまで僕の勝手な想像。他に意見があればもちろん構わない」


クグツは他の意見を促すが、異議を唱える者はいなかった。直属配下(サーバント)たちは、主が示した道を歩いていく。


「じゃあこれから協力者探しだー! で、どうやるの?」

「ホープ。考えをまとめてから喋りなさい」

「すみません」

「言い忘れてた。みんなには悪いんだけど、僕は少し外れる」


クグツの離脱宣言に配下全員が困惑する。


「ど、どういうことですか?」

「そんな心配しないで。個人的な用ができたんだ。少しの間みんなと離れる」

「何かあったんですか?」

「ちょっと……ね」


クグツの曖昧な発言に深入りしようとホープが切り出しそうになるが、エレーナが間に入った。


「承知しました。して、私たちはどうすればいいでしょうか?」

「みんなの内1人には、協力者の捜索をしてほしい。悪いけど後のみんなは待機だ」

「なんで1人だけなんですか?」

「1人でも事足りるって思って。捜索と言っても無理はしなくていい。本格的な捜索は僕の用が済んだ後からにしよう。行く前にも言ったけど、この任務には制限時間はない」


クグツは急ぎの物ではないことを強調した。


「最終的に少女の居場所、もっと広く、いる町でもいい。存在が確認できれば十分。『逃げられない』思考を植え付けるだけでもいい。別にドンパチなんてやる必要はない。仕上げ(・・・)は僕がやる」

「了解しました。ではそのご命令──」

「はいはいクグツ様! 俺、俺やります!」


グローリが腕を天に突き上げた。そんな彼をエレーナが睨む。


「グローリ……」

「うっ……エ、エレーナ姉さん。今回ばかりは俺も引き下がらないぜ。単独任務なんて、クグツ様に良いとこ見せるチャンスじゃないすか!」

「私も私も!」

「エレーナさんでも譲れませんね」

「俺も同じく」

「サンも……やりたいです」


グローリを筆頭に、次々と志願者が続出する。この展開にエレーナも黙るしかなかった。


「仕方ない……ではここは、ジャンケンで決めましょう」


エレーナが打開案を提示した。


「あれか、クグツ様の故郷の遊びか」

「正々堂々真剣勝負。異論は?」


なし!! 全員が高らかに叫ぶ。自分が名誉を勝ち取るのだと、闘志を滾らせている。最初はから始まる掛け声に合わせて、クグツを除く全員が同時に利き手を前に出した。



「よっしゃあー!!」



天運が味方したのは、グローリだった。



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