偶然の出会い
「はい?」
ありのまま今起こったことを話すぜ。俺こと、男、15歳、日本人、身長175.6cm、明善高校に通う1年生、士道春喜は学校の帰り道を歩いていた。早く帰って溜まってるアニメの2、3本を消費したくて、家に最短距離で帰れる人通りの少ない道を選んだ。よし、ジョジョみたいに進めているが、ここまでは何の変哲もない日常だ。
あのアニメのあのキャラはどうなるんだろうなとか、数学の課題がめんどくさいとか、クソどうでもいいことを心の中で独り言を呟いてたら、目の前に黒い穴が現れた。比喩でもなんでもない。ドクターストレンジのポータルのように突如として出現した。奥には暗い暗い闇だけが見えてた。と観察していたら、二秒後には世にも美しい銀髪の美少女がこの黒い穴から出てきて、そのまま重力で地面に落ちた。
海外モデルと言われても何も疑いなく信じられる容姿とスタイル。知り合いに2人ほど美少女がいるけど、勝るとも劣らずと言った印象かなと勝手に自己評価を付ける。そして今に至る。そうだな、理解不能だな。
「う、うぅ……」
「いやマジどゆこと?」
これで混乱しない奴はこの世にいるんだろうか? 引き出しから出てきたドラえもんを見たのび太の気持ちがわかった気がする。なんて思ってる場合じゃない。目の前に現れた少女を見つめていると、いつの間にか黒い穴は霞のように消えていた。
少女は驚いた表情をしている。さっきまで黒い穴が浮かんでいた空中を手で触っているが、もちろん何も触れずただのパントマイムもどきになってしまっている。
「ええっと……」
明らかにすぐに背を向けて走り出した方がめんどくさいことに巻き込まれないで済みそうだが、彼女がどうにも困っているように見えた。おろおろしているし、顔が「ここはどこだ?」って言ってるみたいだし。
声をかけるくらいはしても良いと思って口を開いた。
「あのーちょっと────」
「っ!!」
でかい風が吹いた。風は髪をかき上げ服を揺らし、すぐに収まった。風は少女がありえない速度で移動して巻き起こった物だとわかった時には、氷の剣先が俺の眼球すれすれの位置にあった。はい、意味不明です。
「へ?」
「────」
俺が素っ頓狂な声を出すと同時に少女は言葉を発した。しかし言語はわからない。日本語はおろか英語ですらない。言葉を終えると脈絡もなく俺の周囲に何本もの矢が現れた。全く比喩ではない。しかも弓道で使うような矢尻が付いた物ではなく、火や水や風で作られた、中にはピカピカ輝く光輝の矢まで存在する。
俺の体をガララアジャラの蜷局巻き攻撃のように囲んでいる。もしこのまま矢が飛んでくるならば、俺の体には無数の穴が開くこと待ったなしである…………とか冷静に判断してる場合じゃない!
「ま、待った話を」
「────」
また言葉を何か言ったが全く聞き取れず、氷の剣先がより眼球に近づいた。まずい。次に何か言えば死ぬ予感がある。気持ち悪い汗が背中を伝う。映画とかなら泣きわめいて漏らす悪役とかが居そうだけど、今の俺はそれどころじゃない。
「────」
また少女が何か言ってる。駄目だ、さっきよりも語気が強いことくらいしかわからない。何の言語だ? アラビア? スペイン? ミニオンとかプレデターみたいな未知の言語じゃ会話不可能だわ。じゃあ何も打つ手ないじゃん! 終わったよ俺の人生! 俺何かした? 銀髪美少女に殺されるような罰を天から課せられるような悪行した?
いや待て。あれか? 前の週に桜楽と映画に付き合わなかったからか? 仕方ないじゃん! 店長にシフト入れって言われたんだから! 先月5回もTOHOシネマ行ったんだから1回くらいいいだろ! 約束破りは重罪か! 神は懐が狭いねえ!
【ねえ】
あー死にたくない死にたくない! 見たいアニメとか映画が山ほどあるんだ! MCUまだ終わってないし、アバターとかまだまだ続きあるし、ハンターハンター終わってないし!
【ねえって】
まだスパイダーバース完結してないじゃん。ザバットマン2も見たいしワンピースだって完結まで死ねない。キングダムの実写だってもっと作られるだろうしそれから──
【聞いてるのか!】
「はいっ!」
びっくりした! なんだ? 声が聞こえた。なんだろう? なんか変な感じだ。目の前には相変わらず剣をこちらに向けている少女と幾多の矢が自分を狙っている。まさか誰か他の人が来たのか?
【さっきから無視をして、一体どういうつもり?】
無視? 待てよ、もしかして彼女が話しかけているのか? でも口は動かしてない……
【死にたいらしいわね】
「滅相もない! まだまだ生きたいです!」
【言葉がわからない。喋り言葉をやめろ。私はお前の脳に直接言葉を送っている】
何? 脳に? じゃあ今の俺の言葉届いてる?
【ええ。わけのわからないことばかり喋ってる。あなた何者?】
「いやこっちのセリフだけど」
ああそうだ、喋りじゃ伝わらないんだった。てかどういう仕組み?
【念話──秀念力の応用よ】
は、はいてれ……なんだって?
【魔術には疎いみたいね。てことは、魔王軍の下っ端も下っ端かしら?】
「魔王軍? え、何?」
いや、とりあえずいいや。話せるなら良かった。とりあえずその剣と周りに物騒な矢を下ろしてくれない?
【敵が目の前にいるのに武器を下ろす兵士がどこにいる】
「て、敵!?」
なんで? どうして? 丸腰だよ俺?
【信じられるか。主導権は私にある。『剣生』のジンはどこ? 知っていればまだ生かしてやっても良い】
ジン? 誰それ? なんか色々誤解されてる気がする。見てよほら、俺の格好。どっからどう見ても高校生。
【こう……こう?】
て言うか俺の話を聞いてくれ! さっきから意味がわかんない! 君が黒いゲートから出てきたと思ったら殺意剥き出しにされるし、魔王とかわけわからんこと喋るし! なんかもう……同じ世界の人間とは思えないよ。
【同じ……世界……あれ?】
銀髪の少女は目を見開いた。頼んでも下ろしてくれなかった氷の剣を下げ、気づいたら周りに散らばっていた矢もどこかへ消えていた。
「な、なんだ急に……」
【何……ここは?】
少女は辺りを不思議そうに観察し始めた。アスファルトの地面、電柱、カーブミラー、マンホール、石の壁、数軒の民家。俺にとっては見慣れた風景だが、彼女は初めて見るかのように困惑していた。
【ここはどこ? そうだみんなは……っ!】
どこってそりゃあ日本ですけど。
【に……ほん?】
え、何その顔? もしかして知らない? じゃあやっぱ外国人……いや待て、違うな。そもそもあれだよね。黒いゲートからこの子が現れたんだ。ありえないこと、でも今ここにいることは現実だ。だったら俺の答えは一つしかない。完全にマルチ──
【さっきから1人でぶつぶつ呟くな! 魔王軍の手先!】
「だから違うって!」
彼女がまた剣先をこっちに向けてきた。よしわかった率直に君に訊きたいことがある。発言の許可はいいですか?
【……言ってみて】
もしかして、君は別の世界から来たとか?
【別の……世界】
そうそう。何かそっちで起こったことなかった? 例えば、死んで女神様に会って別に世界で生きてくださいって言われたとか、ゲートみたいな所潜ったら全く違う景色が見えたとかさ。
【ゲート……そうだっ! ジンが見たことがない双剣を無から取り出したと思ったら、黒い穴が現れて……それから……ここに……】
おお、当たった。言ってみるもんだな。
【なんでそんなことわかるの? お前は神か何か?】
いや今のは適当に言っただけ。アニメと映画の知識だよ。特に人生の役に立たないけど、君の困惑を減らせたなら知っておいて良かったと思う。
【お前は誰だ?】
春喜。士道春喜。さっきも言ったけどただの高校生。少なくとも君の敵じゃないのは間違いない。
【ハルキ……本当に魔王軍を知らないのか?】
知らないよ。
【パクス王国も?】
どこそれ? ヨーロッパ?
【本当に知らないのか……すまない。気が動転していて武器を持たないハルキに剣を向けてしまった。本当に申し訳なかった】
彼女が手にしていた氷の剣は力を失くしたように水になってアスファルトに落下した。そして先ほどとは打って変わって、静かな落ち着きで俺に向かって頭を下げてきたのだ。
同一人物とは思えないな。だが敵意を向けられるよりはこっちの方が全然良い。さてさて、問題はここからだ。
【そうか……私は迷い込んでしまったんだな】
銀髪の少女の声が脳に届く。なんとも寂しく幼児の印象が突き刺さる。さっきまでの抑揚はどこに行ってしまったのか。
「ほっておけないよな」
あのー惚けてるとこすいません。
【む? どうした?】
よければ話聞きましょうか? ここじゃ人が来るかもしれないんで、とりあえずあっちの公園の方で。
【何を言ってる? さっきまで武器を向けていた奴にか? 怖いとは思わないのか?】
「あははは……まあ確かにそうかも」
でも気になるんで。それに見ず知らずの世界で1人は危険です。日本は治安は良いですけど、どこにでも屑はいますから。
【確かにそうだな】
早口。これだけ納得早くない?
【本当に……良いの?】
はい。時間が許す限り、いくらでも聞きますよ。




