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ヒーローがいない世界  作者: 坂田リン
第2章:二人目
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やること①



「ふむふむ……なるほどなるほど。完璧に理解しました」

「ホントかよ」


桜楽がパチンと指を鳴らす。同時に桜楽は料理の最後の一口を口の中に入れた。


俺とグウェンは桜楽に全てを打ち明けた。桜楽の出自、こっちの世界に来てしまった理由、俺と桜楽が出会った経緯、その他諸々の細かい出来事も全部話した。


その都度しつこく桜楽が「一緒の部屋で寝た?」

「一緒にどんな食事をした?」「まさか風呂は一緒じゃないよね!?」といちいち同居していたことを指摘してきたので話が進まなかったけど、今ようやく終わりを迎えた。


「春喜。私は今感動してるよ」

「なんで?」

「マルチバースが本当にあったんだよ!」


めちゃめちゃウキウキと体を躍らせている桜楽。こいつ、割とシリアス目に話したのに、なんでそんな能天気なんだ。


「小さい頃から夢見てたよ。マーベルのようにこの世界、否、宇宙は1つではないと。スパイダーバースのB・パーカーのように同じ姿の自分が目の前に別の次元から現れるんじゃないか。まあそれは違ったけど。ともかく、映画のような展開が私の前に舞い降りたのだ! これは興奮しなければ話が進まない!」

「興奮でちゃんと理解できるか不安だ」

「ノープロブレム。あれでしょ、BLEACHの一護とルキアが出会いました、あれと同じ。簡単簡単」

「いやいやちが……くないか? むしろ似てるかこの展開?」

「ごめん。話についていけない」


グウェンが蚊帳の外になりそうだったので、話を本線に戻すことにした。


「とりあえず、グウェンが魔王軍に狙われてる。それが今1番問題にすべき点だ」

「魔王軍かー。魔王はサノスみたいな奴?」

「俺も似たようなこと言った」

「……言うのが遅くなってしまったけど、言わせてほしい。本当に申し訳ない。無関係な2人を危険な目に遭わせてしまった」


グウェンが深く頭を下げる。その姿にどう反応していいかわからなくて、桜楽もはしゃぐのをやめた。


「い、いやいや、そんな頭下げなくたって」

「笑って済まされることじゃない。2人の命が奪われてたかもしれないんだ。私が関わったばかりに……この償いは必ず」

「重いって。予想できなかったんだ。グウェンだって被害者側だ。仕方ないだろ」

「でもせめて……私が戦えていれば……」

「それだけどさ、春喜があの変態倒したってマジで?」


その話は一度説明したが、桜楽はまだ信じ切れていないみたいだった。まあ無理もない。俺と桜楽の立場が逆だとしたら、俺も同じ行動を取るだろう。


「私はびっくりしたよ。探しに戻ってたら、春喜がガチガチのスーツ着ちゃって私を拉致しちゃうんだから」

「あん時は俺だってビビったよ」

「あの時間は最高だったなあ」


桜楽は、過去を思い出してだらしない笑みを作る。なんでそんな嬉しそうなんだ? そして拉致は語弊がある。


全てが終わった後、俺とグウェンは早く逃げなければならなかった。あれだけ派手にやったからには、爆音くらいは外に漏れ出ていてもおかしくなかった。中から外の状況を把握することはできなかったけど、ずっとその場に止まっていたら警察とかの外部が入ってきてしまう。俺たちの姿を見られるのは避けたかった。


だから俺はグウェンを背中におぶってダッシュすることに決めた。カスみたいな行動だがこれしかなかった。俺が手に入れた超スピードでモールを抜けて人気のない場所まで移動する。それをやろうとした時に桜楽と出会った。


グウェンは気休めに、最後に出せる小さな魔術を施してくれた。隠密(ハイド)という、他人からの認識を阻害させる魔術だった。しかし知っての通り、グウェンには、もう下位魔術を十分に発揮できるほどの魔力さえ残っていなかった。それでも魔力のないこの世界の人々を騙すには十分だとグウェンは言っていた。


実際俺たちは誰の目にも止まることはなく、難を逃れられた。


「あのまま残っていたら、ネット記事に顔が公開されてたかな」


俺はスマホを操作して、昨日上げられたネット記事を開いて机の上に置いた。それは、俺と桜楽が映画を見てきたショッピングモールについての記事だった。


「モールの半壊、奇跡的に負傷者はなし、怪しげな男が入っていく所を複数の目撃者が証言、これは人為的な物か老朽化によるガス爆発か、現在原因を解明中。そりゃあんだけ騒いだらこうなるよな」

「あーあ。1番近い映画館あそこなのになー」

「そこかい。もっと心配するところあるだろ」

「春喜のあれがカメラとかに映らなくて良かったよ。じゃなきゃもっと騒がれてた。あのスーツの人物は一体? 外国からの暗殺者? あのバットマンとプレデターを足して2で割ったようなマスクの下の顔はどうなっている? とかね」

「どんな見た目してるんだ俺は。でもそれ以上に、遺体(・・)があったらもっとやばかった」


俺は奴、名無しの傭兵(ノーバディ)を追い詰めた時、こいつをどうすべきか悩んでいた。トドメを刺すべきか、それとも生かしてどこかに連れて行くか。正直あんな屑はさっさと殺した方が世のためになると思ったけど、殺しに躊躇いはあった。


自分の理性が抑えつけていたのもあるが、もし殺したとして、その後遺体はどうする? 自分たちで運んで山に埋める? 想像したくない。でもそんなことをすることにはならなかった。



「塵になって消えたんだよね。あの変態」



そう。名無しの傭兵は、突如として身体が灰のように変化して崩れていった。無惨な最期を遂げたあいつの姿に、俺とグウェンは唖然とするしかなかった。


「そうだ。ホント意味不明だった。まあよくよく考えてみれば、なんかしらの魔術なんだろうな」

「ハルキの言う通りよ。あれは遠隔の魔術で、恐らくまじないの魔術の一種。使い手は好きな時に奴を殺せたんだわ」

「なんで殺したの?」

「多分、情報漏洩を防ぐため。私を狙う理由は依然不明だけど、私を始末したいってことは、つまり元の世界に私を帰らせたくない。ジンが名無しの傭兵(ノーバディ)を送ってきたってことは、そいつはこっちの世界と私の世界を行き来できる方法を知ってる可能性が大いにある。私にその情報を知られたくなかったんじゃないかしら?」


グウェンの言い分は筋が通っている。グウェンは俺たちに、万全の状態ならば間違いなく奴に勝っていたと豪語した。慢心ではなかった。それならなんであんな奴を刺客として送り込んできたって話になるが、それはグウェンが負傷していたからに他ならない。


ハンデがあれば勝てると思い、グウェンが相手にした『剣生』のジンは名無しの傭兵を送り込んだ。実際思惑通りに事は運ばれなかったわけだが、あいつを塵した魔術は、仮に負けた時の口封じだったんだろう。


「ジンって奴は中々用意周到だな」

「私の世界とハルキたちの世界を隔てたとしても作動する魔術。間違いなくジンが持つ魔装具(カース)、いや、魔古遺物(レリック)に相当する物の能力。ジンはまだ手の内を隠して」

「あのー専門用語は後から訊くとして、なんかそのーグウェンさんの世界と私たちの世界って呼び方変えない? 長いし」


いきなり過ぎる。まあ確かに呼びづらいっちゃ呼びづらい。


「桜楽決めていいよ」

「よーし! じゃあ私たちの世界がアース1で、グウェンさんの世界がアース2。はい決まり!」

「ここアース616じゃないのか?」

「あれはマーベル。正直あれ覚えにくいし」

「左様で」

「とりあえず、色々聞きたいことはあるけども、最優先事項として考えなくちゃいけないのはずばり、グウェンさんをどうやってアース2に帰してあげるのかってことでいいんだよね?」


自分で決めた用語もう使ってるな。「私からもお願いしたい」とグウェンが桜楽の言葉に同調した。


「この世界にもう迷惑はかけられない。だから一緒に方法を見つけて欲しい。そうしたら、私はすぐにでもここから出て行く」

「おい待て。なんでそんな考えになる?」


グウェンは「え?」と間の抜けた声を溢す。


「駄目だぞ。その考えは却下だ」

「ま、まさか春喜! 物珍しい異世界から来た銀髪美少女を監禁して、自分の物にしようとしているの!?」

「ちゃうわ。グウェン、仮に明日にでも帰る方法が見つかって帰ったとして、次の瞬間どうなる? 即死だろ、今の状態じゃ」


「それは……」とグウェンから貧弱な言葉が出る。俺の意見を否定できない。グウェンだって自分の状態くらいわかってるはずだ。


「たとえ万全でも同じことの繰り返しじゃないのか? 魔物ぶっ倒して、魔物ぶっ倒して、そのサイクルから抜け出せるのか? 俺は反対だ」

「じゃあどうすればいい? まさか……春喜はあの言葉、本気なわけじゃないよね?」

「あの?」

「魔王ぶっ飛ばすって」


ん? …………あ、そういえば、戦ってる最中にそんなこと言っちゃってた気がする。グウェンに聞こえてたのか。


「あーあれね……正直あの時ね、アドレナリン出まくっててぇ……大見え張っちゃってたかも」

「やっぱり。でもいいの。私も聞こえた時はびっくりしたけど、その言葉だけで嬉しかった。本当にこの世界で最初に出会ったのが、春喜で良かったと思ってる」

「グウェン……」

「気持ちだけで私は救われたの。だからこれ以上、巻き込むわけにはいかない」

「駄目だ」

「ええ!? 今駄目の流れだった!?」

「頑固なんでね俺は」


わかりました、なんて簡単に認められるか。


「認めないぞ俺は。知り合った人間が死地に向かうのを、黙って見届けるクソ野郎にはなりたくない。言っただろ。自分の顔を鏡で見るんだ。そしてその鏡の中に俺を入れろ。俺にだってやれることがある。巻き込まれるなんて知るか。俺は諦めないからな。絶対に、絶対にだ」


これだけは譲ることができない。グウェンが知らない場所で死ぬのを想像するだけで頭が痛くなる。そしてそのことに気づきもしない俺自身を想像すると吐きそうになる。絶対にさせない、させてたまるか。


グウェンにも俺の本気が伝わったのか、怖気付いて何も言えなくなっていた。


「あのー私抜きで2人の世界に没頭するのやめてもらえません?」


桜楽が俺とグウェンの間に腕を差し込んできた。顔は笑顔だが目が笑っていなかった。


「怒ってる?」

「怒ってませーん。食事のすぐ後にシリアスムーブ出すのは勘弁してほしい。そんな踏み込む必要ないって。少なくとも私は、グウェンさんの体力と魔力が全快になるまでは待った方が良いと思う。どのみちそうならないと後々めんどうでしょ?」

「まあ、そうね」

「ならこの話は一旦保留で。てか、もっと根本的な障害があるよね。どうやってグウェンさんがアース2に帰るのか」


本当に根本的だった。そもそも帰る方法が見つかっていない。


「グウェンさん何か当てあるの?」

「いや、ない。あの男から情報を引き出せれば良かったんだけど……」

「ふっふっふ、それなら心配いらないぞ」


桜楽のご意見は最もだ。だがしかし、俺の方が1枚上手だった。


「春喜当てあるの?」

「簡単だろ。今回、グウェンの命を狙う処刑人がやってきた。俺らは抵抗こそしたが、危うくジエンド寸前だった。ならどうすればいいか? 答えは──」


「アべンジだ!」



決め台詞言われた。





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