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ヒーローがいない世界  作者: 坂田リン
第1章:一人目
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天位魔術



「あ、でも例えばさ、グウェンが魔力を分けてくれたら、俺も魔術使えるようになるの?」


2人の男女の、ありし日の会話の続き。


「誰かに魔力を与えるなんて、やった事ないからわからないけど、可能性の1つとしてはあり得るかな」

「マジで?」

「でも試してみようなんて考えない方が良い。未知の領域に身を乗り出したら危険が伴うことが瞭然。私とハルキの人体の構造や脳の形には特に目立った違いはないと思うけど、なにせ私とハルキは別の世界の人間なんだ。魔力だって魔術だってない。言わばそれらは異物(・・)でしかない。そんな物を体に取り込んだら、一体何が起きるか想像がつかない」

「何も起こらずに体に順応する場合もある?」

「まあ、あるわね。でも魔力があるからと言って魔術がすぐに使えるわけじゃない。ちゃんと勉強して鍛えて訓練して、徐々に徐々に魔術の手札を増やしていくの」

「グウェンは結構早く扱えたんだっけ?」

「まあね。自慢じゃないけど、私天才だから」

「自慢にしか聞こえない。でも、それだとあれか、俺も可能性あるよな。魔力手に入れた瞬間スーパーサイヤ人みたいにどかーんて覚醒するかも」

「あまり夢を見ない方が良いと思うけど……でもあれ(・・)なら……」

「あれ?」

「いや、なんでもない」


この話題はこれっきりだった。


魔術はどこかの四次元ポケットから出てくる便利道具ではない。グウェンは自身を天才だと自負しているが、その真価は努力あってのこと。魔術師(ソーサラー)にとっての天才とは、触れもせずに薪に火を焚べた状態から始まるということ。


天才ではない凡人は、湿ってない薪を集め火をおこすことから始めなければならない。言わば、天才は基盤が整っている。しかしそのままでは宝の持ち腐れで終わる。火が目の前にあっても、薪をべなければいつか火は消えてしまうように。


勉強すればテストの点が上がるのと何ら変わりはない。積み重ねが摂理であり常套手段。魔術のまの字すら知り得なかった一般人が、火や水や雷を即興で生み出すことは不可能。


だが例外(・・)が存在する。


それ(・・)は、極めれば使えるようになるゲームのレベル上げとは全くの別物。


それは、いくら優秀や天才と揶揄される魔術師(ソーサラー)でも、こればっかりはどうにもならない先天性の天授である。


それは、使う者の資質によって能力が異なり、既存の魔術には一切該当がない。


それは、魔術の力量に囚われず、魔力があれば自発的に我が物として扱うことが可能である。


それは、魔王軍が蔓延る異世界において、使える者は希少な存在として認知されている。


まして、別世界の人間、それも魔力すら持たない世界の人間がそれを使うなど、一体誰が考えるのか?


もしそんなことが起こり得たなら、それはきっと、奇跡としか言い表せないだろう。



         ────



ヒーローにはヒーロースーツがあるって思い込んでた。実際俺の知ってるヒーローたちはスーツを着ている。スパイダーマンとか、あれどうやって視界映ってんだろうって思うけど、やっぱりヒーロースーツはかっこいい。実用性とかはともかく、ヒーロースーツは見てるだけでテンションが上がるんだ。


でもマーベルの作品を見ていくにつれて、そうでもないと思うようになった。ドラマのデアデビルとか、マットは黒い布で目隠ししただけの状態でヒーロー活動をしていた。いやあれは自警団活動か。


ジェシカジョーンズとかルークケイジも、ディフェンダーズメンバーはヒーロースーツなんか着てなかった。ヒュージャックマンも黄色のスーツをX-MENシリーズでは着てくれなかったし。まあ俳優たちが美男美女ばっかりだから、絵的には全く問題なかった。でも、俺は少し物足りなさを感じてしまった。


スーツが全てって言うわけじゃない。スーツを着なくたってカッコいいヒーローはいっぱいいる。スーツなしじゃダメなら、スーツを着る資格はないって素晴らしい名言もある。それでもやっぱり、俺はスーツを着て戦うヒーローの姿が好きだ。言葉じゃうまく伝えられないけど、あるんだよ、何かが。


小さい頃は自分専用のやつをデザインしてたこともあった。絵心がカスだったからやめたけど。


着ればワクワクして、ドキドキして、心の底から勇気と力が湧き出てくる気がするんだ。きっと、なんでもできるようになる────えっと……




俺今、何してんだっけ? ああそうだ、俺は死ぬ間際にいた。きもい変態クソ野郎が、なんかスゲー技を繰り出して来てた。夏油げとうの極ノ番うずまきみたいな見た目だったな。ぶっちゃけると、これ助からねえなと思った。


だって無理ゲーだろこれ。俺は無力でしかなかった。グウェンにカッコつけたけど、一か八かなんて希望が無さすぎる。ご都合主義展開は現実にはないんだよ。せめてグウェンだけでもと思ってたけど、俺じゃ肉の壁にすらならない。あの一瞬は血の気が引いてわけわからないことを考え始めて、頭が真っ白になりかけた。


でもあの時……手を握られた。冷たくて暖かくて、俺は握られてない手の方を前に突き出した。多分その時、あの変態野郎も仕掛けてきた。頭上に浮いてた、植物をぎゅうぎゅうに押し込んだ肉塊みたいなやつから、巨大なバリスタみたいなやつが俺たちに飛んできた。俺は思わず目を閉じてしまって、直後にでかい音が鳴った。


絶対死んだと思った。視界は暗いままだったけど、案外死んだ後の景色ってこんなもんかと思った。でも瞼を開けれて、どうやら俺はまだ死んでなかったらしい。でも自分を見るのが怖かった。ほら、よくいるでしょ? 自分の無くなった腕とか見て発狂するモブ。今は痛みがないだけかもしれない。いや、それよりもグウェンだ。無事なのか確認しないと。


「ハ、ハル……キ?」


グウェンの声らしき物が背後から聞こえた。良かった無事で──


「ん? なんだこれ?」


振り返ろうと思ったけど、何か視界に違和感があった。なんだこれ? 鮮明なようなぼやけてるような……ん? なんか腕、俺こんな服着てたっけ? なんか声もごもって聞こえる。てゆーか────なんだこの()


「ど、どうなってる?」


狼狽を含んだ声が遠くから響いた。名無しの傭兵(あいつ)の声だとすぐにわかった。


「あれ? し、死んでない。死ぬでしょ、今の。な、なんで、何、何なのその姿(・・・)?」

「姿?」


戸惑ってる敵を置いといて、俺は自分の姿を確認してみる。すると何もかもが変だと気づく。俺は何かを被っていた。ヘルメットみたいな硬く丈夫な作りをしている。どんなデザインなのかは俺にはわからなかった。


そして上半身と下半身が謎のスーツに覆われていた。黒と赤の2色が目に入り、材質は硬くはあるがさほど重さは感じず動きやすい。背中とかはどうなってるのか…………いや何これ?


「んんん??? 俺いつの間に早着替えした?」


俺はそんな芸当持ってないぞ。てかこの持ってる盾何? キャプテンのヴィブラニウム製の盾みたいに丸くて重量がある。こんなの持ち歩いてた覚えもないぞ。


「もしかして、これで攻撃を防いだ?」

「ハルキ……それは何だ?」


ようやく背後のグウェンの方に顔を振り向くことができた。


「おお、グウェン! 良かった無事だったんだな」

「いや、それよりも、そのガチガチのスーツ姿は何? そのマスクも」

「いや、俺もよくわからんけど、グウェンの魔力のおかげだろこれ」


今の俺の現状を説明できるとしたらそれしかなかった。名無しの傭兵(ノーバディ)の攻撃が飛んでくる直前、グウェンが手を握ってくれた。今思えば、俺に魔力を与えてくれたんだと理解できる。


「ありがとう。信じられないけど、どうやら賭けには勝ったみたいだな。で、これどういう魔術?」

「知らない」

「え?」

「私、そんな魔術知らない。先生が教えてくれた魔術の中にも、これまで戦場でたくさん見た魔術の中にもそんな形の魔術はない」

「ええ、これ既存じゃないの?」


じゃあ何これ? でもそうか、グウェンも魔術は一朝一夕で手に入る物じゃないって言ってた。最初から俺の希望は薄いも薄かったんだ。だがそれなら俺の今の姿が余計にわけがわからなくなる。


「スパイダーマンのスーツみてえ」

「まさか……ハルキのそれは」



「まあいいや」



ずしんと体が重くなった気がした。グウェンに与えられたからか、自然と頭と身体で理解できた。今の感覚は魔力の解放。圧に当てられて鳥肌が立つ。名無しの傭兵が植物の肉塊を肥大化させていた。


「まぐれでしょ、どうせ。そうだもう一度、そうだ、もう一度やれば!」


脈打つ心臓のような動きを見せた後、肉塊の中心から姿が変形して、槍の先端のような突起物が顔を出した。やばい、来る。俺たちを殺そうとした攻撃が。


「チ──」


身構える前に発射された。さっきは咄嗟の判断でガードできたけど今の反応じゃもう間に合わない、と覚悟していたけど、俺の瞳に映る光景はさっきまでと違った。


動きが遅い。


速くはあるが対応できる。魔力を手に入れたことで動体視力が活性化したのか。そんなことグウェンに聞く暇はない。今の俺ができること。左腕には頑丈な盾──守る一択だろ!


「おらあ!」



ガキィンッ!!



奴の攻撃と俺の盾が衝突した。俺は盾で受け流すようにカウンターの姿勢をなるようになれ状態で取ってみたら、見事に攻撃は弾かれ近くの雑貨店に突き刺さった。


「なっ!?」

「おぉ、おおお!」


盾には傷1つ付いていない。それどころかインパクトの衝撃すら体は感じなかった。吸収してるのか? まじもんのヴィブラニウムじゃねそれ?


「まじか! 何これすげえ!!」

「す、すごい……すごいぞハルキ!」


スーツといい盾といい、よくわからないことが多いが、俺に何かしらの力が宿ったってことは理解できた。守ることができたなら、次は何をやるべきか、答えは判明してる。


「グウェン。ちょっと持ってて」

「え、あちょっと」


グウェンに盾を預けて拳を握る。力が怖いくらい全身に感じられる。今の俺なら片手でバスを止めることくらいできるかもしれない。でも今の俺にはもっとやることがある。


「な、なんで、とど、どうして。も、もう1回」

「そんな猶予ねえよ」


全力で踏み締めると、床が割れた。軽く跳躍するつもりだったのに、弾かれたパチンコの如く勢いで俺は前方に吹っ飛んだ。


「どわあああああああ!!」


凄まじかった。何メートル飛んでいるのかわからないが、マスクを被っていなければ顔が空気抵抗で千切れていたかもしれない。スーパーマンの超スピード飛行の感覚を掴んだ気がする。


「はは、いいねこれ!」

「は、はあ?」


下には間抜けづらを作った名無しの傭兵(ノーバディ)がいる。良い面になったなあ。


「まず桜楽を不快にさせた分から!」


天井を床に見立て蹴る。推進力を倍増させ直線を描く。


「待────」

 

恨みを乗せた破壊の鉄拳をお見舞いした。



         ────



グウェン(かのじょ)きっかけ(・・・・)だった。


春喜(かれ)助け(・・)を与え、守る(・・)を与え、勇気(・・)を与え、魔術・・を与えてくれた。


その内の魔術は特別だった。手に入れた魔術(ちから)は単なる武器ではなく、憧れ(・・)


奇跡に等しい憧れには名称がある。




その名前は────天位魔術(リーサルウエポン)




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