プロローグ
それは、空に浮かぶ楽園の都だった。誰もが存在すら忘れかけていたその都市は、ある日突然、音もなく崩れ落ちた。
燃え盛る空、響き渡る叫び。地上に残された人々は、それが何を意味するのかを、まだ知らなかった――。
「……ア、ノア……」
すぐ近くで、突如として大きな爆発が起こった。
頭の中でキーンという音を響かせながら、僕は今、空を見上げながらただ呆然としている。
「ねえ、ノア……!」
服の裾を掴まれながら、勢いよく体を揺らされる。
何をそんなに焦っているというのか、今はもう、何をしても意味が無いというのに。
だって今……、
―――――空から、街が落ちてきているのだから。
これはなんの比喩でもなく、言葉通り街がそのまま空から落ちてきている。こんなこと前代未聞だ、生まれてこの方聞いたことが無い。
僕は立ち尽くしながら、落ちてくる街を凝視する。
どこの街なのだろうか、見たことの無い建物ばかりだ。落ちゆく街並みを、まるで他人事かのように凝視し続ける。
ゆっくりと世界の音が帰ってくる中、僕は隣に立つ少女へと声を掛けた。
「フィナ、僕もう何が何だか、分からなくなってきたよ」
「……私は――」
彼女の言葉を遮るように、突然、目の前に男女の二人組が現れた。
男性は表情が固く、寡黙で少し圧がある。簡易的な鎧を着用しており、この女性を護衛する身なのだろうと思った。
女性の方も凛々しく整った顔立ちをしているが、なぜだろうか、彼女からは感情の一切が読み取れず、男性とはまた違った圧を放っている。目が合うと、鋭く刺されるような感覚が背筋に伝わってくるようだ。
「こんな所にいらっしゃったのですね」
「……っ」
「……誰だよ、お前ら」
明らかに動揺したフィナを背後へと隠すように移動させて、少し前に僕が出る。
「……ほう」
「お友達ですか? お嬢様、そろそろお時間ですのでこちらへ」
関心する男性を気にした様子もなく、その顔に愛想笑いを浮かべた女性はすたすたと近づき僕に問いかけた。
「そ、そっちから名乗るのが礼儀ってものじゃ――」
「セラヴィス、やめて!」
女性はその瞬間に表情を消し、目の前に居たはずの姿形は消え、どこかから鈍い音が聞こえて僕は意識の中へと誘われた。
少し勇気を出して踏み出したものの、一瞬でそれを無へと帰えられたのだった。
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――ア。
何か聞こえる、段々と遠くなる声。
――ノア。
なんだ? 一体、誰が、僕の事を……。
――ノア……お兄ちゃん。
誰、なんだ? 僕に、兄弟はいないはずだ。
そう、いないはずだ。
西方都市で幼馴染のイリスと共に育ち、母さんと僕の二人だけで生きてきたんだ。
――ノア、私の可愛い子。
母さん? ……違う、知らない声だ。
――忘れないでください。
いや、僕はこの人を、知っている。
あなたは、ヴァルトリアの栄光を取り戻す、鍵なのですから――。
その言葉を最後に、僕の意識は完全に暗闇の中へと消えていった。