降臨 20
「…………落ち着いたか?メアリー嬢」
「はぁ、はぁ……はい、お待たせしました…」
あれから激闘(言い合い)を繰り広げ、その途中で自身の痛みを魔王と共有することが出来ることに気づき、それからは魔王が変に言い返してきたときに自身の左腕にシッペをかました。
「はぁ…こんなことは初めてだ…まさか自身を痛めつけてまで妾に反撃しようとは……」
「なに?まだなにか言いたいことでも…?」
そう言って、私は再び右手をシッペの形で構える。
「あー!待て待て!わかった話し合おう!な?そなたも痛いのは嫌だろ?」
「…もう余計なことは言いませんか?」
「言わない言わない!妾たちは仲良し!な?」
「……なんか癪に触りますが、大人しくするなら良しとしましょう」
「…ふぅ、助かった…もう痛い思いはコリゴリだ…」
今までの人生で、痛みなどほとんど感じたこともないのだろう。
シッペの痛みに相当参っている様子。
正直、シッペのしすぎで左腕が少し腫れてて私も痛かった。
あの魔王でも、痛覚共有による痛みはさすがに堪えたみたいだ。
「…やっと話が進みそうだな」
「あ、お待たせして申し訳ありません!」
私たちのしょうもない喧嘩に、レオン殿下もさすがに呆れている様子。
小さくため息をついた。
「はぁ、まあいい。ちなみに、さっきのを見ている限り、身体の主導権はメアリー嬢が握っているのか?」
「え?あ、確かにそうですね。何故でしょう?」
「ん?それはそうだろう。今世は妾ではなくそなたの人生なのだから、そなたが人生を謳歌すべきだ。妾も、そなたの人生を奪ってまで生き返りたい訳でもないからな。ただ…」
「わわっ!なに!?」
「え、メアリー嬢!?」
急に私の右腕が動く。
そして、そのままレオン殿下の左頬を撫でた。
「こうやって、やろうと思えば動かすこともできなくはない。ただ、あくまでも主導権は妾ではない、ということだ」
「そ、そうか。説明ありがとう…」
「うむ。伝わったのなら僥倖だ」
笑顔で応える魔王。
その笑顔と直前の頬撫でに、思わずレオン殿下はドキッとして目を逸らしてしまう。
「まーおーうー……………」
「ん?なんだなんだ?」
「余計なことはするなって言いましたよね!」
バチンッ!
「あいたーっ!」
シッペによる高い打突音と、魔王の叫び声が辺りに響き渡った。




