降臨 18
「…いや、その必要はない。俺たちはその魔王に助けられたのだ。魔王が悪いやつではないことくらい、さすがにわかるさ」
「…………本当ですか?私が言うのもなんですが、この国の歴史的に私が存在してはならないのでは?」
「そんなの、バレなければいないのと一緒だ」
「え、えぇ……」
まあ、確かにバレなければいいんでしょうけど……
本当にいいんでしょうか?
さすがに殺されるのは嫌ですし、この国を出ていけというなら仕方ないですが、それでも__
「メアリー様。今、この国を出ていこうとか思いましたね?」
「…え?何故それを…あ」
ヴィサス様の言葉に、思わず口を滑らす私。
しかし、ヴィサス様の目を見ると、私が口を滑らす前にすでに確信した目をしていた。
表情に出していないはずなのに一体何故…?
「さすがにそれくらいわかりますよ。メアリー様はお優しい。それも、自分の身を犠牲にできるくらいに。そんなメアリー様なら、国のことを思って出ていくくらい考えそうだなと思っただけです」
「……なるほど。でも私はヴィサス様が言うほど優しくありませんよ?出ていくと思ったのだって、ただこの国にいるのが面倒だと思っただけで__」
「出ていかないでください、メアリー様」
私は、ヴィサス様に抱きしめられてしまった。
あまりに不意な出来事に、反応できずにあっさりと捕まってしまう。
「え、ヴィサス様?一体何を__」
「出ていかないでください、メアリー様。私はメアリー様と一緒にいたいです」
「え?でも、私なんていないほうが_」
「私なんて、は禁止なのでしょう?メアリー様がおっしゃったことではないですか。それに、レオン殿下もこの国にいてもいいとおっしゃっています。何も気にすることはありません」
「それは…確かに…そうかもしれませんが……」
「どうしても気になるなら、私のために残ってくれませんか?私は、まだメアリー様と離れたくありませんし、ずっと一緒にいたいです。それでも、ダメですか?」
少し離れて私の両手を掴んだ後、涙ぐんだ上目遣いで私の瞳を一直線に見つめるヴィサス様。
「うっ!……ヴィサス様が…そう言うなら……」
「あ、言いましたね!?言質は取りましたからあとからナシはだめですよ?」
そう言うヴィサス様の笑顔はすごく眩しくて、私のような陰の者はそれだけで焼け焦げてしまいそうだ。
「感動しているところすまんな。ちょっと確認したいことがあるんだ」
そのとき、レオン殿下が割り込むように話しかけてくる。
正直、恥ずかしかったのでちょうどよかった。
「はい、大丈夫ですよ。どうかしました?」
「今はメアリー嬢で間違いないとして、さっきまでは魔王だった、ということで間違いないのか?」
「まあ、たぶんそうだと思います。よく覚えていませんが、私が死にかけたとき、夢の空間?みたいなところで、助けるから入れ替われって言われたので」
「なるほど……今はもう魔王と入れ替わることはできないのか?」
「え?どうでしょう…あのときは特殊でしたし、今はもう無理かも__」
「いや、妾はここにいるぞ」
突然、私の口が勝手に動き出す。
この感じはまさか…!?
「魔王!なんで_」
「なんでと言われても、入れ替われるのだから仕方ないだろう?おそらく、妾が力を解放しすぎたせいなのだろうが」
私がしゃべったことに対して私が答えるみたいな変なことが起きている。
「これじゃあ、ややこしすぎます!どちらがしゃべってるか分かりません!」
「うーん、そうか?そうだな……あ、そう言えば、違うところが一つあったぞ!」
え、嫌な予感がする。
すると、私の意思と関係なく、瞬きをした。
「妾と入れ替わるときはこれがあるし、分かりやすくていいだろう?」
「……なるほど。これは確かに分かりやすい」
「え?どういうことですか?私には分からないんですけど」
「メアリー嬢には分からないだろうな。ヴィサス嬢。頼む」
ヴィサス様が水を出して、私の顔の前で平たく伸ばす。
すると、そこに、私の顔がはっきりと映し出された。
「え?目が真っ黒?」
「そういうことだ。妾に入れ替わっているときはこれで一目で分かるな。なに、目が黒くなっているだけで他に変化はない。何も心配せずともよいぞ」
「え…そ、それなら……いいんですかね…?」
「当然いいとも。というわけで、レオン。ヴィサス。よろしくお願いする」
「は、はい…」
「よろしく…」




