本物の竜 10
「仕方ありませんよ。そんな状況ならルナに頼りたくなる気持ちも分かります。ですが、スターシも分かっていると思いますがルナは……」
「はい。それはもう……」
恐怖に気が動転して、思わず頼ってしまっただけなのだろう。
冷静になってみたら無理なことくらい、私が言わなくても分かっていることなのだ。
「しかし、ルナ様がおられないならば、私たちは一体どうしたら……」
「…ちなみに、今その竜はどうなっているんです?」
「……ご覧になられますか?」
そう言って、連れられてきたのは中庭。
天井等は一切無く完全に室内から解放された空間で、丁寧に切り揃えられた草花が綺麗に並び、中心に噴水設置されそこに繋がるように小さな小川が流れていて実に美しい景色だ。
「……あちらです」
「…………あれが……」
スターシに促されて山頂の方に視線を向けると、そこにあったのは壮観な景色だった。
爬虫類を思わせる細長い胴体に無数の黒い鱗。
その胴体に鋭い爪が生えた四本の黒い脚が、山々を上から掴むようにして立っていた。
虎のような頭に鰐のように長い口と鋭い牙。
鹿の角のようなものが二本生え、鬼の目のような真っ赤な瞳に中心の黒い瞳孔がギョロギョロと辺りを見回すように動いている。
その風貌は正に、文献に記されていた想像の絵と瓜二つであり、誰が見ても竜そのものであった。
グオォォォッ!!!
私たちが見ている中、竜は空に向かって咆哮を上げる。
地面がビリビリと揺れ、山脈の一部が崩れていくのが見えた。
「ああやって、今のところは咆哮を上げて少し身じろぎするだけなのですが、それだけで周囲を破壊し、地形を変えてしまうほどの強大な力があの竜にはあります。そして、次の瞬間には私たちの国へ襲いかかってこないとも限りません」
ちょっと動くだけで山を崩すような巨体を持つ竜が、何かの拍子にいつこちらに襲いかかってくるかも分からない。
そんな、いつ災害に見舞われるかも分からないような状態では当然安心出来るはずもなく、どうにか安全を確保したいというのがスターシの願いなのだ。
「……まあ、スターシの言いたいことは分かりましたが…あんな巨大なもの、どうにか出来るんですかね?」
「ど、どうでしょう……?」
私の質問に、スターシは不安そうな表情で首を傾げる。
ルナなら何とか出来たかもしれないが、ただの人間である私たちには出来ることは少ない。
スターシも正直、「どうにもならないのでは?」と内心思っていることだろう。
「……まあ、どうにも出来ないからと言って放置も出来ませんし、賭けにはなりますがここは素直にいくとしましょう。ルミナス」
「はーい。なんですかー?」
「転移魔法の準備を。まだ飛べますよね?」
「バッチコイですよー。任せてください」
私はルミナスを呼び出すと、転移魔法を使うよう指示する。
ルミナスは敬礼すると、先ほどと同じように足元に魔法陣を作り出した。
「え…ど、どうするおつもりなのですか…?」
急な私たちの動きに、訳が分からず不安そうな表情のスターシがおそるおそる私に尋ねてくる。
「決まっています。あの竜と、直接話をするんですよ」




