緑の鬼との激闘 8
ズシャッ!
ポタタッ……
「…………あれ、何も起きない…?」
確かに、切れる音と水が流れる音がしたのに、どこも痛くない。
というか、その水が私の顔に飛び散ったみたいだ。
なんだか、鉄の匂いがする…
恐る恐る目を開けてみる。
「ま、まさか…そんな……っ!」
自分の目を疑った。
目の前の光景を信じたくなかったから。
だって、そこにいたのは……
「め…メアリー様っ!!」
私の代わりに風の刃を受けたメアリー様の姿だったからだ。
左の肩から胸の中心くらいまで袈裟懸けに斬られており、その傷口からは血が滴り落ちている。
どう見ても致命傷だ。
「ああ…なんでっ…嘘、私……!」
まともにしゃべることができない。
自分の口から出てくる言葉は酷く乱雑で、理由もわからずただ音を出しているだけだ。
「…………よかった……無事で…」
メアリー様が口から血を吐き出しながら首だけ後ろに向ける。
「め、メアリー様!どうして…っ!」
「……思わず出てきちゃいました…どうしても見捨てられなくて……どうしても…守りたくて……」
「そんな!私なんて…!」
「私なんて…は禁止ですよ……貴方はとても魅力的で、私が唯一守りたいって思った女の子なんですから……ゴホッ!」
ぐらりとメアリー様の身体が傾き、座り込んでいる私の方に倒れ込んでくる。
それを私は、慌てて受け止めた。
メアリー様の血が、私を濡らしていく。
「メアリー様…血が…こんなにたくさん…!」
「…ごめんなさい、汚しちゃいましたね……」
「そんなことどうでもいいです!とにかく止血しないと…!」
「もう無理です…この傷じゃ、ポーションも間に合わない…」
「そんな……いや!そんなのいや!」
どうしても諦めたくなくて、どうしても認めたくなくて、溢れる涙をそのままに思わず頭を左右に振って嫌な想像を頭から追い出す。
「ヴィサス嬢!メアリー嬢!」
そのとき、レオン殿下が駆けつけてくれた。
「レオン殿下…っ!メアリー様が…メアリー様が…っ!」
「わかっている!」
古代の袋からポーションを取り出すと、メアリー様の傷口に直接ぶっかける。
しかし、傷口は塞がることはなく、何も変化しない。
「何故だ!どうして!」
「ポーションは生きている者を回復させる薬…私の命はとうに尽きました…今は魔力で無理矢理話しているに過ぎません……」
「そんな…それではもう……」
「はい…………」
ガクッ、と項垂れるレオン殿下。




