スターシは耐え忍ぶ 2
「……さて、私はルナ様が戻られたときに歓迎する準備を__」
「聖女様!大変です!」
そのとき、理の聖女である私の秘書の一人が、息を切らしながら中庭に慌てて入ってくる。
「どうしたのですか?」
「はぁ…はぁ…た、大変です!新たな魔王が結界の境界線に現れました!」
「な、なんですって!?」
新たな魔王がここに…?
確か、新たな魔王の使者は指定した場所に三日後に会おうと言っていたはず。
それが何故…それも今……
「……考えても仕方ありません。直ちに向かいますよ!貴方はすぐに兵士たちに戦闘配置につきなさいと伝えなさい!」
「しょ、承知しました!」
私と秘書は、それぞれの目的のために走り出した。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
「__よぉ、久しぶりだな。元気にしてたか?」
結界の境界線。
その向こう側に、悩みのタネであるライオン顔の大男が立っていた。
「……さっきまでは元気だったんですけどね。貴方のせいで先ほどまでの満ち足りた気持ちが台無しです」
そして、反対側の境界線の内側に私。
結界の境界線を挟んで、お互いが向き合うように立っている。
「おいおい、なんだよつれねぇな。俺とお前の仲だろ?」
そして、軽薄そうにニヤニヤしながら私に話しかけてくるのが、今代の魔王候補の一人。
背はものすごく高く、一般的な建物なら頭が天井についてしまいそうなほど。
腕や脚、背中に至るまで筋肉で大きく膨れ上がっており、革製のアーマーが非常に窮屈そうに見える。
腕には革製のアームガード。脚は同じく革製のレッグガードを身に着けており、腰には趣味の悪い髑髏の形をしたバックルのベルトで腰から太腿までを覆う革製のウエストアーマーをしっかりと固定している。
ベルトには軽く道具を持ち運ぶ用のポーチが吊り下がっていて、背中には私の身長よりも大きな大剣を背負っている。
そして、何よりも目を引くのはその頭。
頭は完全にライオンと呼ばれている獣と同じ見た目をしており、ライオンの雄特有のたてがみが風になびいてゆらゆらと揺らめいている。
頭だけでなく身体も全てライオンと同じ体毛で覆われており、指の先は鋭い爪がキラリと光り、脚はブーツも履かず素足のまま立っている。
この姿は魔族の中でも獣人と呼ばれる種族で、全身が獣の姿をしていて普通よりも身体能力が高いことが特徴の魔族だ。
姿はライオンだけでなくありとあらゆる獣の姿が存在しており、それぞれがモチーフになっている獣の特徴を色濃く反映した身体能力を持っている。
もしウサギなら跳躍力が。ゴリラなら腕力が強いといった感じだ。
そして、目の前にいるライオン頭の軽薄そうな獣人が、世界征服を企む新たな魔王と呼ばれている魔族なのである。
名は【コンカラー】。
初めてここに来た時に勝手に名乗っていった。
あんな奴の名前など、呼んでやる気などサラサラないが。




