緑の鬼との激闘
「すごい…あれが本当の戦い…」
私、ヴィサス・カサンドラは震えながらそれを見ていた。
激しい地鳴りの音が聞こえる。
メアリー様とキングゴブリンが戦っている音だ。
動きが速すぎて目で追うことができない。
あれが本当の戦いなのだとすれば、私たちが今までしていたことは戦闘ごっこに過ぎなかったのだろうか…
そう思わせるほどの濃密な殺気。
それだけで、私は身が竦んで動けない。
「メアリー様…どうか……どうか無事で…」
そんな私は、祈ることしかできない。
本当にただの足手まといだ。
悔しくて、涙が出てくる。
あの強さなら、私たちを見捨てればいくらでも逃げ出すことなんて出来ただろう。
それなのに、私たちのために命をかけて戦ってくれている。
でも、私にできることなんて何もない。
変に手を出したところで、手助けになるどころか足を引っ張るだけだ。
そのとき、メアリー様の周りの地面が盛り上がり、壁になった。
その瞬間、圧力がさらに増した。
私に向けられていないのでその程度で済んでいるが、至近距離で直接向けられているメアリー様はどれほどの圧力を受けているのか…想像することもできない。
そして、辺りを静寂が支配した。
地面が陥没して亀裂が入り、遅れてとてつもない音と衝撃波が飛んでくる。
私は、吹き飛ばされないように杖を地面に刺してなんとか踏ん張った。
衝撃波が止んでメアリー様の方を見てみると、先程の衝撃で土の壁は吹き飛んで中が見えるようになっている。
目を凝らしてよく見ると、キングゴブリンの大剣をメアリー様が挟み込むようにして受けとめていた。
「白刃取り…?ですか?」
と思ったら、さらに衝撃波が飛んできた。
メアリー様がどんどん地面に沈んでいき、亀裂もそれに合わせて広がっていく。
「あ…!メアリー様!?」
徐々に押し込まれていて、あわや押し潰さると思ったその瞬間、メアリー様の魔力が一瞬だけ跳ね上がり、キングゴブリンの大剣を折ってしまった。
…それにしてもおかしい。
渾身の一撃であろうはずの攻撃を防がれるだけでなく、大剣まで折られているのにむしろ喜んでいる?
「__お前たち!!!」
空気が震えるほどの叫び声が響き渡る。
思わず耳を塞いでしまうほどの声量で、端にいるはずの私にまではっきりと聞こえるほどだ。
「あそこにいる二人をいたぶってこい!すぐには殺すなよ!それだとつまらんからな!」
「…え?今なんて…」
はっきり聞こえていたはずなのに、内容が信じられなくて思わず聞き返してしまう。
しかし現実は非情で、辺りからゴブリンの叫び声が響き始め、ついにこの部屋を埋め尽くすほどの大きさにまで膨れ上がる。
そして、その全員がこちらに目を向ける。
「え…いや、来ないで……」
私の小さな声など、ゴブリンたちの声で一瞬で消え去る。
そして、ものすごい地響きと共に、無慈悲な行進が始まった。




