追うもの 追われるもの 40
「ちょ!ちょちょちょ待てよ!」
「…………またですか?」
男の引き止める言葉を聞いて決闘前のウザかった光景を思い出し、うんざりしながら後ろを振り返る。
「いや!それじゃ俺が納得できねぇ!負けたのに何もなしじゃ、俺の気が収まらねぇよ!」
「は?なんですか?わざわざ罰を受けたいと自分から求めるなんて、貴方やっぱりドMなんですか?」
「は、はぁ!?そんなんじゃねぇよ!」
私にドMかと問われ、顔を真っ赤にして否定する男。
そんなに激しく否定したら、むしろ信憑性が増してしまうというのに。
「とにかく、私がいいと言ったらいいのです。勝者に敗者が口を出すものではありません」
「ぐっ……!」
まだプライドは残っているのか、私がそう責めたてると、男は悔しそうな表情で口を噤む。
「分かったのならそこで寝ていなさい。それでは」
再びその場でクルッと回転すると、森の中に向かって歩き出す。
「…………いや!待ってくれ!」
「……はぁ、しつこいですね。いい加減にしてくれませんか?」
またもや呼び止められ、いい加減イライラが募ってきた。
そこまで言うなら、一発殴らせてもらいましょうか?
そんなことを思い始めているところに、男は思いがけないことを口にした。
「また俺と決闘してほしい!」
「………………は?」
なんだ。今なんて言った?
……決闘?そんな馬鹿な。
たった今負けたばかりなのに?
……そうだ。きっと聞き間違いだろう。
そうに違いない。
冷静になって聞き直せば、本当はなんて言ったか分かるはずだ
「はい?今なんて言いました?」
「俺とまた決闘してくれって言ったんだ!」
……残念ながら聞き間違いではなかったようだ。
「は?貴方何言ってるんですか。また負けたいんですか?そうまでして罰を受ける口実が欲しいんですか?本当にドMなんですね、ドン引きです。変態はこれ以上近寄らないでください」
「い、いやいやいや!そういうんじゃないからっ!!」
早口でまくし立てる私の言葉を、男は両手を左右に振りながら激しく否定する。
違うというのなら一体何だと言うのだ。
「単純に俺はお前と戦えばさらに強くなれると思ったからそう言っただけだ!俺は馬鹿だから、言葉で教えてもらってもよく分かんねぇし、実戦で鍛えてもらったほうが良いと思って!ただそれだけだから!」
「……本当に?」
「ほんとほんと!」
よく分かんないが、私から戦闘技術を盗むという話だろうか?
私は魔法という魔法を使えないから余り参考にするのに向かないと思うが、この男には何か思うところがあるのだろう。




