追うもの 追われるもの 28
「これはもう俺の勝ちだろ」
「はぁ?何を言ってるんですか。こんなので勝ちなわけないでしょう?」
私の痛恨のミスにより、あの場所から動いてしまっていた。
だって暑かったですし。
水をくれるっていうから取りに行っただけで、私何も悪くありません。
「いやいや、お前動かしてみろーなんて煽ってやがったじゃねぇか。それをまんまと動かしてみせたんだから俺の勝ちだな」
それをこの男はグチグチと勝ち誇った顔で……
私が動いたのだってただの偶然なだけで、狙ってやった訳でも何でもないくせに。
「……ショーディ、そこまでにしましょう。実際、ただ動いただけで別に降参したわけでもありませんし、それが勝敗の基準にしたわけでもないでしょう?」
そのとき、橙色の髪の女が男を窘める。
「いや、だってよ。ここで勝ちをもぎ取っておかないとたぶんもうチャンスないぞ?」
おい、こいつ分かっててあんな図々しいことを言っていたのか。
「……例えそうだとしても、あらかじめ決闘の勝敗にそのようなルールをつけていないのであれば勝ったことにはなりません。それで私たちの勝ちの芽がなくなったとしてもです。ズルはいけません」
「そうだそうだ。もっと言ってやれ」
「おい」
この女の人、話が分かりますね。
私は動かせるかな?と言っただけで、動いたら負けとは一言も言っていません。
つまり、私が恥をかいただけでまだ負けてはいないのです。
……え?恥をかいたのなら負けと一緒なのではって?
…………それはそれ、これはこれです。
「それによ、ハルカ。俺たちの目的はこの女を連れて行くことだろ?いいのか?負けたら連れて行けなくなっちまうぞ?」
「そ、それは……」
男の言葉に女は困った顔をする。
二人の目的は私を連れて行くこと。
もし負けて私がここから去れば、次いつこうして私を見つけられるか分かったものじゃない。
このチャンスを逃したくないと思うのも分かる話だ。
その様子を見て、私は小さくため息をつくと、一つ思いついたことを提案する。
この二人は私を捕らえようとしているのであって、私が譲歩する理由は少しもないのですが……私って本当にお人好しですね。
「はぁ…はいはい、分かりましたよ。確かに、このまま戦ったところで私が負けるとは思いませんし、勝敗が決まった戦いをしてもつまらないのは事実です。なので、ここはこうしましょう____」
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「__いいのか?そんな条件で」
「はい。心配しなくても負けるつもりはありませんよ」
決闘が始まるときと同じように、私たちのは適度に距離が離れた場所に立つ。
あれから私が一つ提案すると、少し悩んだ素振りを見せた後しぶしぶ応じた。
元々、私の提案を飲む以外に手段は残されてはいないのだから当然と言えば当然だが。




