追うもの 追われるもの 27
「な、何してるんだ!早く飲め!飲んだらさっさとそれを仕舞うんだ!」
男は慌てた様子で私を急かす。
顔をそらしながら水を出していない方の手で目を覆って、必死に見ないようにしていた。
……そういえば、まだ胸が見えたままでしたね。
胸元を開けたままこちらに来たため、遠くでボンヤリとしか見えなかったものが近くに来たためにハッキリと見えてしまい、それが初心な男には刺激が強すぎたようだ。
だって、まだ暑いから仕方ありませんよね。
「はいはい、分かりましたよ」
私は、顔が見えないように注意しながら両手で水をすくうと、それを口に持っていく。
手と喉が冷たくて気持ちいい。
「コク…コク…この水美味しいですね。まるで高山の採れたての水みたいです」
「の、飲んだなら早く仕舞え!」
「なんですか。せっかく褒めているところなのに」
「わ、分かったから!ありがとう!だから早く仕舞え!」
「……仕方ありませんねぇ」
まあ、身体も冷えたことだし、このまま出しておく理由もないので素直にリボンを結び直す。
「……ふぅ…お前、もう少し自分の身体を大事にしろよ」
私が仕舞い込んだことを確認すると、安心したかのように息をつく男。
出していた水は握り潰すようにして消す。
そうやって心配するかのような言葉をかける男に、私はさっきの光景を思い出した。
「…………こっそり見ていたくせに」
「あ!このやろっ!俺は見ないように必死に…!」
「あのぉ……」
「「!」」
そのとき、私たちの横からいきなり声が聞こえる。
声が聞こえた方に視線を向けると、そこには橙色の髪をした女が申し訳なさそうに立っていた。
「えっと…どうしました?」
「いや…和やかに話されているところ申し訳ないんですけど、一つ伝えたいことがあって…」
「はぁ…それは一体?」
「あの……動いていますがいいんですか?」
「……動く?」
「ほら、始めに私を動かせるかどうか、みたいなお話をされてたと思うんですよ」
「そうですね」
「それで、あの……動いていますよ?あそこから……」
そう言って、橙色の髪をした女はおずおずとある地点を指差す。
そこは、先ほどまで私がいた場所だった。
「……………あ」




