追うもの 追われるもの 26
「ふぅ……危うく茹でダコになるところでした…」
熱気をある程度外に逃がせたので、汗で気持ち悪いことを除けばひとまず安心だ。
……って、谷間に汗がたまって水溜りみたいになっているではありませんか。
ハンカチはありましたっけ……
ハンカチで汗を拭き取るべく、ポケットの中を探る。
「お、おい…!お前…!急に脱ぎだして痴女か何かなのか!?」
そんなあられもない姿の私を見ないように指で両目を塞ぎながら、私に向かって非難の声を上げる男。
「なんですか。乳首が見えている訳でもあるまいし、そんなことでいちいち騒がないでください」
ハンカチで谷間の汗をフキフキと拭き取りながらそう言い返す。
「ちっ!?お、お前!そんな言葉を平気で使って恥ずかしくないのか!?」
「はぁ?貴方こそ何をいってるんですか?戦闘中であれば服が破けることなど当たり前のことでしょう?初心ですか、貴方は」
私の言葉や格好に過剰に反応するのを見る限り、どうやら女の肌を見慣れていない様子。
戦闘中なら、これくらい肌を晒すことなど日常茶飯事だろうに。
というか、あの男、指に隙間が空いてませんか?
…………やはり、口では紳士ぶっていても、本能には抗えないようですね。
「だいたい、貴方が私を熱気で取り囲んだからこうなっているのでしょう?つまり、貴方が脱がしたようなものではありませんか」
「ひ、人聞きの悪いことを言うな!ほ、ほら!水やるから!さっさとそれを仕舞え!」
男は虚空に手を伸ばすと、そこに水が集まってくる。
それを私に向かって差し出した。
「あ、いいんですか?気が利きますね。それでは遠慮なく……」
自身の手で私を熱攻めをしたはずだが、助けてくれるというのなら素直に受け取ろう。
私は水を受け取るべく、男の方に向かって歩き出す。
「……なるほど、精霊魔法とは便利なものですね」
男に近づいて差し出した水を観察してみると、普通にただの水のようだ。
試しにつついてみると、指先がひんやりと冷たく感じる。
熱々になった身体を冷やすためにわざわざ冷たい水を出してくれたようだ。
……なんの変哲もない、純粋な水ですね。
このまま飲んでも問題なさそうです。
精霊魔法とは便利ですね。
精霊魔法で生み出したものは、普通の魔法と違って自然そのもの。
なので、魔力などの不純物は混ざっていないようだ。
魔法で生み出した水は普通の水とは違い魔力で出来ているため、作り出した本人以外はそのまま飲んでしまうと拒絶反応を起こしてしまう。
そのため、魔法で生み出した水は特別な魔道具等を使うことで初めて飲むことが出来るようになるのだ。
精霊魔法はその過程をまるまるすっ飛ばす事が出来るようで、遠出するときに一人いれば水問題は全て解決しそうだ。




