追うもの 追われるもの 23
「おらぁっ!」
赤髪の男は剣を大きく振りかぶると、私に向かって振り下ろしてくる。
それを私は、先ほどと同じように親指と人差し指で摘むように止めた。
「……先ほどと同じやり方では、私には勝てませんよ?」
「フフッ、それはどうかな?」
そのとき、剣が勢いよく燃えだした。
「っ!」
私は反射的に摘んでいた剣を放り投げる。
「おっとと……どうだ?ちょっとは焦ったか?」
私が放り投げた剣についていくようにしてバランスを崩す男。
しかし、すぐにバランスを整えると、男はニヤニヤした顔でこちらを見てきた。
その得意げな顔に、私は少しイラッとする。
『……ほぉ、【精霊魔法】か』
「…精霊魔法ですか?」
そのとき、男が使った魔法にルナがいきなり反応する。
戦闘中にいきなり知らない単語が聞こえてきて、私は思わずその単語を復唱してしまう。
「お、よく分かったな?俺が使う魔法が【精霊魔法】だってよ。見た目は【属性魔法】と大差ないんだがな」
その私の呟きに、男は私が【精霊魔法】だと見抜いたと勘違いしたのか、感心したような声を上げる男。
「……そ、そうです。一目見てすぐに分かりましたよ」
『ちょっとルナ!【精霊魔法とはなんですか!?』
その勘違いを訂正することなく、あたかも私が本当に見抜いたという体で話を進める。
だって、感心している相手に本当は知らないなんて言ったらなんか恥ずかしいじゃないですか。
しかし、知らないままでいたらいずれボロが出てしまう。
そうならないために、裏で必死にルナに【精霊魔法】のことを聞いた。
『……なんだ。知らないなら知らないと正直に言えばいいではないか』
『いいから!早く教えなさい!』
『……まあ、いいが…』
そこから一気に教えてもらった。
【精霊魔法】とは。
精霊と親和性の高い人間が精霊と契約することで使えるようになる魔法のこと。
魔力をそのまま何らかの属性や事象に変換する普通の魔法とは違い、【精霊魔法】は精霊の力を借りて発動するため、それによって起こる事象は全て自然そのものである。
故に、物理法則から逃れることは出来ず、いくら魔力をつぎ込もうと水の中で炎を灯す事は出来ない。
代わりに、精霊の補助を得る事が出来るため、少ない魔力で大きな事象変換を起こすことが出来る。
自由度が高く誰でも使える分、魔力と想像力を要求される【魔法】。
精霊との親和性がなければそもそも使うことも出来ず、自由度が低い代わりに想像力をあまり必要とせず、少ない魔力で大きな事象変換を起こす事が出来る【精霊魔法】。
どちらも一長一短があり、ルナが言うにはどちらが優れているということはないようだ。
この内容をものの一分で教えてもらった。
何故あの内容を一分で理解できたのかと言うと、一時的に体感時間を大幅に長くしたのだ。
心の世界で会話する私たちだからこそ出来る技である。




