追うもの 追われるもの 16
「……は?何を言ってるんですか?違いますよ?」
ここで、「はい、私が手配書の女です」なんて素直に認める訳ないだろ。
フードで顔も見えていないことだし、体型もローブで隠れている。
最近希少になっているゴブリンの素材を売っているという情報だけで、私のことを示す証拠など何もありはしない。
それならば、当然しらばっくれるというもの。
「往生際が悪いことを…!魔導警察の前で嘘をつこうっていうのか!?」
「何を馬鹿なことを。何か証拠でもあるんですか?」
「この…っ!」
どうせ証拠なんてないんでしょう?
分かっていますとも。
私の強気な態度に、黒髪の男は苛立ちを隠せない様子。
それに対して、逆立った赤髪の男は余裕そうに両手を頭の後ろで組みながら空を見上げていて、橙色の髪の女は少し不安そうにこちらを見ている。
そのとき、黒髪の男が何か思いついたのか、ハッとした表情になるとこちらを睨みつけてきた。
「……それならお前、フードをとって顔を見せろ。そうしたら分かるだろ?」
何を思いついたかと思えば、なるほど。
私の顔と手配書の顔を見比べようということですね。
確かに、そうすればすぐに分かると思いますが……
「え?嫌ですけど?」
「何!?魔導警察からの要請だぞ!断っていいと思っているのか!?」
「普通に断りますけど?嫌ですよ。貴方たちに顔を見せるなんて」
普通に断った。
顔を見られたらバレるのだから当然だ。
しかし、私に冷たく断られたにも関わらず、黒髪の男はむしろニヤニヤと気色わ……意味深に笑い始める。
「……フフフ、分かっているのか?この要請を断るということは、お前があの手配書の女であると認めているようなものだぞ?」
言質を取ったと、ニヤニヤした顔でここぞとばかりに私を責め立ててくる黒髪の男。
少し顔が整っている分、そのニヤニヤ顔がより際立って見える。
さっきの問答だけで、もう勝った気でいるらしい。
……正直、見ていてイラッとする。
それに、顔を見せない理由はちゃんと別に用意してある。
「…何を勘違いしているんですか?私が顔を見せない理由はそんなのではありません」
「な、なんだと…?」
私の返答が予想外だったのか、余裕の表情が崩れる。
「私がまだ小さい頃に家が火事になりましてね。そのときに顔に酷い火傷をしてしまったんです。それがそのまま傷痕として残ってしまって…それから私はこうしてフードを被って人に顔を見られないようにしている、という訳です」
「な、なに…?火傷だと…?」
もちろん嘘である。
火傷も火事も何もかも嘘。
ただ、こう言えば大抵の人はフードを被りっぱなしなことに対して気を使って何も言わなくなる。
火傷しているか確認しようにも、その確認行為自体が私に失礼なことをしていると思われるため、誰も確認しようとはしない。
こうして、私は二ヶ月もの間、この街でフードを被ったまま過ごしていたのである。




