追うもの 追われるもの 8
「……そんなにお願いされても無理なものは無理だ」
そんな彼女を、加工屋のおじさんは冷たく突き離す。
ハルカは、加工屋のおじさんの言葉を受けて、シュンと落ち込んだように顔を少し曇らせた。
「…おっさん、さっきはすまなかった」
そのとき、ショーディがいきなり加工屋のおじさんに対して謝罪をしてきた。
先ほどまでと全然違う態度に、少し面食らってしまう。
「俺が失礼なことをして怒らせてしまったのならいくらでも謝る。土下座でも何でもする。だが、どうかこの人の話は聞いてやってほしい」
真剣な表情でそう語るショーディ。
その目には少しも冗談の色は見えない。
そして、ポツポツとあることを語りだした。
「…俺、昔は相当荒れててさ。世界で一番不幸ですみたいな顔をして、イライラを周りにぶつける毎日。で、そんなことを繰り返していれば当然、周りから恨みを買っちまう。そして、ついにそんな俺に年貢の納め時ってやつが来ちまった。何十人に囲まれて絶体絶命ってやつだ」
まるで、懐かしむかのように自身の過去を話すショーディ。
それを、加工屋のおじさんは何を言うでもなく静かに話を聞く。
「一応、ヤンチャしてた身だ。腕に自信はあったが、多勢に無勢。いくらか抵抗はしたが、その内袋叩きにされ始めて、もう終わりかと諦めかけた。そのとき、さっきの自己紹介をしながら現れたのがそこのハルカだ」
「ちょっ、ショーディ!その話は!」
そう言って、ハルカに目配せするショーディ。
急に自身の名前を挙げられたハルカは、最初は抗議の視線を向けていたが、次第にショーディの真剣な眼差しに耐えられなくなって視線をそらしてしまう。
「この人は超がつくほどの正義マンでさ。俺が殴られているのをたまたま見かけて止めに入ってくれた。『こんな大人数でたった一人を袋叩きにするなど、人道に反している』、とさ。だが、俺を殴っていた奴らは俺を何でこんな目に遭わせているのか説明しだした。俺は警察にも度々手を出している。事情を知れば、こいつは去っていくだろうと思った。むしろ、一緒になって俺を攻撃してくるかもと。そう思ってしまうほどのことを俺はしてきたんだ。だが、こいつはその話を聞いてどうしたと思う?」
「ショーディ……」
真剣に語るショーディに、物憂げな視線を向けるハルカ。
加工屋のおじさんは、相変わらず何も反応もせず、黙って話を聞いている。




