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信頼 3

「…やれたとしても、知性のある魔族だけだと思うぞ。無差別にこちらに攻撃を仕掛けてくる奴らは、さすがに庇いきれない」


「ああ、それで十分だとも。これで、心残りもなくなった…まずは、こちらが約束を守る番だな」



ゆっくり玉座から腰を上げる。


そのまま一歩一歩近づいてくる、ただそれだけの動作なのに、その一つ一つの所作が綺麗で思わず見惚れてしまう。



「…さぁ、遠慮はいらない。ひと思いにヤるといい」



いつの間にか、目の前にまで彼女が来ていた。

いつでもいいぞと両手を大きく広げる。


勇者と呼ばれた男は、意識をしっかり保つように頭を左右に振る。



そして、覚悟を決めた。



「………すまないっ!!!」



剣を持った手に力を込め、目にも止まらぬ速さで彼女に肉薄(にくはく)する。


そのまま、一気に彼女の胸に剣を突き立てた。



「…勇者よ。約束(たが)えるでないぞ…」



彼女の口の端から赤い液体が溢れ、顎を伝い滴り落ちる。


剣は彼女の体を貫き、突き刺さった周辺からも赤い液体がゆっくりと染み出して彼女のドレスを汚した。



「…ああ、必ず守る。だから安心して眠るがいい…」


「…フフッ…随分と奇特なやつだな…魔族の中でもさらに凶悪な魔王に対してそのような言葉を口にするなど、そなたくらいのものだぞ?」



貫かれた胸を中心に、ゆっくりと彼女の身体に亀裂が広がっていく。



「…これで終わりなのだな…最後に妾はお前のようなやつに出会えて幸せだったぞ…」



力が抜け、ゆっくりと目を閉じる彼女。



「…これが最後にはならない。お前は天国にいく。そして生まれ変わって、今度こそ幸せになる。美味しいものを食べたり…綺麗な景色を見たり…!好きな人と一緒に過ごしたりして…!!絶対だっ!!!」



勇者と呼ばれた男の目の端から、、透明の液体が溢れ、何本のもの筋となって床に落ちていく。



「…そうか……それは楽しみだな…ありがとう、勇者。そなたのおかげで死ぬことも怖くなくなった…」



小さく笑みを浮かべる彼女。

その頃には亀裂が全身に広がり、身体の端から砂のように崩れ始めていた。



「…必ず約束は果たす!必ず…!必ずっ!」


「ああ…ありがとう______」



その言葉を最後に、彼女の身体は完全に砂と化してしまった。


あとに残るは、彼女であった砂の塊だけ。


それも、風に吹かれるように霧散していく。



「何があっても成し遂げてみせる。だから、生まれ変わったそのときはきっと_」



勇者と呼ばれた男は、天井を仰ぎ見ながらある一つの誓いを立てる。


覚悟が決まったとき、男の頬を濡らす液体はもう乾いていた。

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