精霊と伝説とアホな鳥 29
コ、コ、コ、コケーッ!
どうやら、描き終わったようだ。
私に見せたいのか、しきりに地面にくちばしを向けてアピールするコカトリス。
「え、なんですか?何を見せたいんですか?」
何が何やら分からぬまま、誘導されるままに地面に描かれているものを確認する。
「…え?これは……絵、ですか?」
そこには、簡単だがいくつか絵が描かれていた。
まず始めに、これは私だろうか?
制服を着た髪の長い女の子が、お腹をすかせているジェスチャーをしている絵がある。
それから左矢印が引いてあって、その先にコカトリスと、私であろう女の子がそのコカトリスを襲おうとする絵があった。
それからさらに左矢印が引いてあって、そこは大きなバツ印が描いてある。
これは、私がお腹をすかせている、だからコカトリスを襲う、それは駄目、と言いたいのだろうか?
コケッ!
そこまで見たところで、コカトリスが別の地面をくちばしで指し示す。
そこには、別の絵が描いてあった。
私であろう女の子が、コカトリスの背中に乗っている絵。
そこから左矢印が引いてあって、その先には果物の絵がいっぱい描いてあり、それをコカトリスに乗った私が見て喜んでいる絵が描いてあった。
そこからさらに左矢印が引いてあり、そこには大きく丸の印が描かれている。
これはつまり、コカトリスが私をこの果物がいっぱいあるところに連れて行ってくれる、ということなのだろうか?
そこで顔を上げると、コカトリスと視線が合う。
すると、コケッ!と鳴きながらコカトリスが頷いた。
「えっと…魔物、ですよね?コカトリスって…」
しかも、危険度Cランクの非常に好戦的な魔物だったはずだ。
それがどうしたことか。
自分が狙われていることを自覚し、その理由を察知して、自身を狙わない代わりに代替案を提示するという高い知能っぷり。
その上、人間などの捕食対象者を見つけると問答無用で襲いかかるというコカトリスの本能を、見事に抑えてつけている。
コカトリスを見ると、コケ?と不思議そうに首を傾げる。
「……もしかして、突然変異…というやつですか…?」
コカトリスは本来、理性はおろか知能すらない、本能に忠実な魔物だったはずだ。
その知能の低さ故に、人間の罠にかかりやすく乱獲されまくったという過去があるのだが、今目の前にいるコカトリスはそんなことは一切感じさせない。
それどころか、素早く私が求めるものを察すると、代わりのものを用意することで私を説得し、自分の命を助けてもらおうとする知能の高さを見せてくれる。
これはもはや、別種と呼んでもいいかもしれない。




