精霊と伝説とアホな鳥
ごきげんよう。
私の名前はメアリー。
そう。ただのメアリーです。
何でただのメアリーなのか、ですか?
それを説明するには、少し時間をさかのぼらないといけません。
__元々、私はシャーユ王国という国に生まれた貴族の一人でした。
そして、その国に四つしか存在しない公爵家の一つ、フェリシテ公爵家の令嬢だったのです。
そのときは、メアリー・フェリシテとして公爵家の名に恥じない立派な貴族となるべく、日々学園にて勉学に励んでいました。
しかし、つい先日、それはもう大変なことが起きました。
私が国にいられなくなるような大事件が起きてしまったんです。
そして、私は貴族の立場を捨て、その大事件を起こした張本人と一緒に国を飛び出したのです。
それからというもの、私は____
『いつまで回想しているつもりだ?さすがに飽きてきたぞ』
「うるさいですよ、ルナ。後少しなので邪魔しないように」
『そ、そうか?分かった。待っている』
……はい。それで、私はその大事件を起こした張本人ルナと一緒に、身を隠すのにうってつけの場所、【ケイオス大森林】に来ています。
当然、貴族の立場を捨てたのですから名前から家名が消え去り、ただのメアリーになった、とそういう訳です。
今の私はただのか弱い少女。
これから先、ちゃんと生きていけるのか心配です。
『…………終わったか?』
「ええ。もういいですよ」
『よし、これでやっと自由に話せるな』
私の内側で、ググーっと背伸びをしているような感覚がする。
私の内側にいるルナから、我慢していたところを解放された、という感覚が伝わってきているのだろう。
「それで、何か話したいことでもあったのですか?」
『いやな。そんな誰ともしれぬものに語りかけるより先にすべきことがあるのではないかと思ってな』
「そのあることとは?」
『……まず、妾たちの寝床を作らぬか?』
私たちは大事件が起きて国を飛び出した後、真っ直ぐこの【ケイオス大森林】に来ました。
当然、準備など何一つしておらず、今あるものと言えば、いつの間にか着ているこの恥ずかしい漆黒のドレスくらいです。




