終幕 11
「…ウィーリング学園に入学した時、私はずっと一人ぼっちなのだと思っていました。属性魔法に適性がない…そんな異質な私を受け入れてもらえるとは思っていなかったからです。事実、そんな私を疎ましく思ったのか、責められることも何度かありました」
「メアリー嬢……」
レオン殿下が、何か思い出すような表情をしている。
おそらく、あの校舎裏での出来事を思い出しているのだろう。
私は、さらに言葉を続ける。
「ですが、そんな私にもそばにいてくれると言ってくれる人がいました。魔法もまともに使えない私を受け入れてくれて、居場所を作ってくれました。最初は騒がしいのが苦手で、私の周りに集まってくるのが煩わしいとさえ思っていたんです。けど、それでも根気よく私のそばに居続けてくれて、いつしか私はそれを心地良いと感じるようになっていたんです」
「メア……」
伏せていた顔を上げるヴィサス様。
その顔は、悔しさで歪んでおり、瞳の端には涙が溜まっているように見える。
「……私は幸せでした。この時間を手放したくないと思うほどに…けど、これが本当に最後です。皆さん、これからはこの国のこと、よろしくお願いします。長々と話してしまいましたが、そろそろ私は行きます。それでは皆さん、ごきげんよう……」
最後に貴族の淑女らしく、綺麗にお辞儀するとそのまま私は内側に潜った。
代わりに、ルナが表に浮上する。
目の色が、白から黒に変化していく。
雰囲気が、再び厳かなものへと変わっていく。
「……聞いての通りだ。メアリーの覚悟を踏みにじりたくないのであれば、追いかけようなどとは思わないことだな。もし、また一線を越えるような事があれば、次は確実に滅ぼす。ゆめゆめ忘れぬことだ」
そう吐き捨てるように言うと、妾は適当な方向に身体を向ける。
とりあえず、あのゴブリンがいる森でも目指すか…
「ま、待って…!」
ボロボロの身体でこちらに手を伸ばす聖女。
妾は一瞥だけすると、すぐに飛び立つ。
その速度は凄まじく、一瞬で王城が小さくなっていく。
『……見逃してくれてありがとうございます。感謝しています』
「…いい。そなたも奴らを失った。妾と同じでな」
『いえ、同じではありません。何故なら、私の大切な人たちは生きていますから。私が貴方に言ったことは、身勝手でとても取引とは言えない、一方的なお願いでした。それを叶えてくれて本当に感謝しています』
「だからいいと言っているだろう!それ以上言うんじゃない!うぅ…なんだかむず痒いな…!」
『フフフ、分かりました。貴方がそう言うなら、貴方が本当はとても優しいことは私の胸の中にしまっておきますね』
「だから!それを止めろと言っているだろう!」
『アハハ!分かりましたよ。からかうのはこれで終わりにします』
「本当に分かったんだろうな?もう言うんじゃないぞ?」
『ええ、分かっていますとも。それでは、これからよろしくお願いしますね?ルナ』
「ああ、こちらこそよろしく頼む。メアリー」
妾たちは、あのゴブリンがいる森に真っ直ぐ向かっていった。




