アタシが別のアタシになった日 21
「お母さん!お母さん!」
アタシは担架に乗せられたお母さんのところにたどり着くと、必死に呼びかける。
その後、お母さんを担架に乗せ終えて今から担架を運ぼうとした救急隊の一人にすがりつく。
「お願いします!お母さんを助けてください!お母さんもう息もしてなくて…っ!だから…っ!」
「イーリス!」
そのとき、後ろから声が聞こえてくる。
頭だけ振り向くと、そこにいたのはハルカだった。
「ハルカ!救急隊の人が来たからもう大丈夫だよね…!ね…!?」
「落ち着いて!よく見て!」
「え…?」
慌てるアタシをハルカは両肩を捕まえて抑える。
……よく見る?どういうこと?
ハルカの視線はアタシのお母さんの方に向いている。
促されるように、アタシはゆっくりとお母さんの方を見てみた。
「……傷が…ない…?」
血が流れて止まらなかったはずなのに、今は血どころか、ボロボロだった服まで事故に遭う前の状態に戻っている。
何これ?どういうこと?
「…聖女様。お母様はもう大丈夫ですよ」
そのとき、救急隊の人が話しかけてくる。
聖女様?さっきから周りもそう騒いでいるけど、もしかしてそれってアタシのこと?
「聖女様のお力のおかげでお母様は無事です。このように、息もしっかりとしておられます。もう心配されることはありませんよ」
優しい声音の救急隊の人。
…よくわかんないけどつまり、お母さんは助かったってこと?
アタシは力が抜けて、その場にヘナヘナと座り込む。
「念の為、我らの救護施設にて精密検査を行いたいと思います。おそらく、何もないと思いますので心配されなくても大丈夫ですよ」
「は、はい…」
「それでは、また!」
そう言うと、救急隊の人たちはお母さんを乗せた担架を持って行ってしまった。
アタシは、それを呆然としながら見送った。
「……それじゃあ、ボクたちも行こうか。後でおばさんを迎えに行かないとね」
「うん…」
ハルカに支えられ、なんとか立ち上がるアタシ。
未だにアタシは現状を上手く理解できていなかった。
完全に息は止まっていたし、鼓動も無かった。
今だからこそ思えるが、あの時は正直もう手遅れだったのだと思う。
それなのに、いつの間にかお母さんは傷が治っていて、息を吹き返していた。
……どういうこと?
ハルカに支えられながら、回らない頭で辺りをぐるっと見回す。
周りの人だかりからは、聖女様コールがずっと響いていた。
「…救急隊の人も聖女様って呼んでたよね…え、まさか…?」
馬車の事故。
お母さんの傷が治っている。
周りの聖女様コール。
アタシの記憶で、この状況を一発で説明出来ることが一つだけある。
それは……
「アタシ……聖女に目覚めちゃった!?」




