アタシが別のアタシになった日 14
「お母さん…お母さんどこ…?」
アタシは、人だかりの中を彷徨うように進む。
そのまま右往左往と進んでいると、ついに人だかりの中を抜け出すことに成功した。
そこは、ある場所を中心に人がまるで円を作るように囲んでいた。
その中心には、人が一人横たわっている。
__お母さんだ!
アタシはそう確信すると、小走りでお母さんの元に駆け寄る。
すると……
バチャッ!
「何?何か踏んだ?」
何か水たまりのようなものを踏んでしまったらしい。
勢いよく踏んだ水が跳ね返って、アタシの身体を濡らす。
「何これ?口の中に入っちゃった……鉄?」
跳ね返った水が顔にまでかかってしまい、思わず口に入ってしまう。
そのとき、口の中に独特な鉄のような味が広がった。
顔についた液体を手で拭い取る。
「これ……血?」
手が真っ赤に染まっている。
そしてこの鉄のような独特な匂い。
足元を見ると、そこは血溜まりが出来ていて、アタシはそれを勢いよく踏んづけてしまったらしい。
そして、その血溜まりはある方向からずっと流れてきている。
その方向を目で追うと、それはこの人だかりの中心。
アタシのお母さんがいるところだ。
「……っ!お母さんっ!」
アタシは嫌な予感がして、血が跳ね返るのを気にもせず、足がもつれながらもそのままお母さんの元まで走り抜ける。
「お母さんっ!お母さんっ!!」
横たわっている人のところにたどり着く。
そこにいたのはやはりお母さんだった。
アタシは、横たわっているお母さんを抱きかかえた。
「……あら、イーリス……良かった…無事で……」
蚊の鳴くような声でしゃべるお母さん。
目はかろうじて開いているが、焦点がどこにも合っていない。
もう、目は見えていないのだろう。
アタシは、お母さんを強く抱き寄せた。
「お母さん!アタシは無事だよ!だから気をしっかり持って!」
「イーリスが無事なら良かった……ハルカ君も大丈夫だった…?」
「ハルカも無事だったよ!だから__」
「良かった……二人を守れて……」
そう言って、お母さんはかろうじて開いていた目さえも閉じてしまう。
呼吸も、心なしかだんだん小さくなっているように感じる。




