アタシが別のアタシになった日 10
いくら思い出そうと思っても無理だった。
それどころか、元の世界でアタシが何をしていたのかもまったく思い出せなくなっている。
かろうじて女子高生だったことは覚えているが、友達のこととか、親の顔もまったく思い出せない。
「まさか……これも神様が…?」
それか、世界を渡ってしまった影響かもしれない。
とにかく、もう以前のアタシのことはほとんど思い出せなくなってしまった。
名前も、顔も、なにもかも。
__言いようのない恐怖がアタシを襲った。
「嘘…いや……やめてよ…!いやっ!いやぁぁぁぁっ!!!」
このままアタシは消えていってしまうの…?
いやだ……そんなのいやだっ!!!
「ど、どうしたの!?何かあったの!?」
アタシの叫び声を聞いてお母さんとお父さんが慌てて部屋に入ってくる。
「いやぁぁっ!!やめてぇぇっ!!消えないでよぉぉっ!」
アタシはお母さんたちが入ってきたことにも気づかず、そのまま頭を抱えてうずくまってしまう。
「っ!大丈夫!大丈夫よ!アナタは消えたりなんかしない!」
「いやっ!やめてっ!」
お母さんは瞬時にうずくまっているアタシを包み込むように抱きしめる。
アタシはそれを振り払うように暴れた。
「大丈夫!大丈夫だから…!」
「うわぁぁぁぁっ!!」
お母さんの言葉はアタシには届かず、暴れ続けるアタシ。
それを必死に押さえ込むお母さん。
そのとき__
バシッ!
「うっ!」
「…え、お、お母さん…?」
たまたまアタシが振り上げた手が、お母さんの顔に当たる。
お母さんはたまらずアタシの手が当たったところを右手で押さえた。
アタシはビックリして、動きが止まる。
「あ、あの……!ご、ごめんなさ…っ!」
「……大丈夫。落ち着いて?」
お母さんが顔を押さえながらアタシに笑顔を見せる。
でも、やっぱり痛いのか、その笑顔はどこかぎこちなく、ときおり少し歪んでしまう。
しかし、絶対に痛みで声を出すことはなく、ただアタシが落ち着くように優しい声で語りかけてくれた。
「…大丈夫……アナタは消えたりなんかしない…もし何かあったとしても、必ずお母さんがアナタを守り抜いてみせるわ…」
「おかあ…さん……」
「イーリス…愛してる……」
「う……うぅぅ…………」
痛みで辛いはずなのに、アタシを安心させるために笑顔を作るお母さん。
そんなお母さんを見て、アタシは思わず目尻に涙がたまる。
「うわあぁぁんっ!お母さぁぁんっ!」
我慢できず、お母さんの胸の中に飛び込んでいた。
それをお母さんは優しく受け止める。
「ごめんね…!ごめんねお母さん…!」
「いいのよ。子供は親に甘えるのが仕事なんだから…」
「うん…!うん…っ!」
アタシはそのまま、優しいお母さんの胸の中で泣き続けた。
そして、そのまま体力が限界にきたのか、アタシは微睡みの中に落ちていった。




