約束 9
「……まずはそなたたちを隷属の首輪とやらから解放しよう。償いはその後にするから__」
〚ダメなの〛
そのとき、キュルトスがそれは駄目だと妾の言葉に重ねる。
先ほどよりもさらに諦めた悲しい声で、妾は思わず驚いてキュルトスを注視してしまう。
「__駄目?何が駄目なんだ?」
〚……この首輪はね、壊れると同時に装着した奴隷の精神も一緒に破壊する仕組みなの…〛
「なっ!?な、ならば術者を消せばそれで__」
〚それもダメなの。奴隷から見てご主人様にあたる人が死んじゃっても、一緒に死んじゃうの〛
「ぐっ!それならば術者に解かせればいい…!術者が解放すればさすがに__」
〚この首輪にそもそも解放なんてものはないの。首輪をつけられた奴隷は、ご主人様の言うことをなんでも聞かなきゃいけない。そして、もしご主人様以外の人に捕まったら……首輪が自壊して精神を壊し、相手に奪われないようにする…それが一生続く。そんな仕組みなの〛
「な、なんだそれは!それではもう……!」
〚そう…この首輪をつけられた時点で、もう助からないの……〛
声が完全に諦めている。
すでに何とか解除できないかと足掻いた後なのだろう。
そして、それがもう叶わないことなのだと悟ってしまっている。
〚キュルトス…奴隷になっちゃってからはいっぱい悪いことしちゃったの……魔族を捕まえるためにいっぱい傷つけちゃった……何人もキュルトスと同じ首輪をつけさせられた……何人も…何人も……っ!〛
自分の意思では動けないはずのキュルトスの瞳から、涙が一筋こぼれる。
魔道具の力を、一瞬だけとはいえ上回るほどの悲痛な叫び。
その声だけで、キュルトスの壮絶な苦しみが伝わってくる。
「キュルトスのせいではない!そなたは命令されただけだ!やりたくてやった訳ではない!」
〚でも…!そうだとしても……キュルトスの手でやったことには変わりないの……今でも思い出せる…キュルトスが首輪をつけるときの魔族の顔……絶望に歪んでた…!それをキュルトスがやったの…っ!もう元に戻せないのっ!!〛
「く…っ!」
妾を圧倒するほどの感情の激流。
それが、テレパシーを通じて妾に流れ込んでくる。
その圧倒的なまでの悲しみと後悔は、妾ですら簡単には受け止めきれないほど。
油断すれば、その悲しみに飲みこまれてしまいそうになる。
頭を左右に振って、気をしっかり保つ。




