信頼 2
「そうか。それは妾たちが人間たちを殺したからか?」
「…そうだ。それがたとえ、人間が先に侵略を始め、魔族たちが自らの住処を取り返す行為だったとしてもだ」
彼女の質問に、勇者と呼ばれた男は淡々と答えた。
その人間に都合の良すぎるセリフに、彼女は諦めたかのようにため息をつく。
「そうか…妾がいなくなったあと、他の魔族たちはどうなる?」
「…おそらく、狩り尽くされるだろうな」
「そうか…そうか………」
スーッと、彼女の美しい瞳から一筋の涙がこぼれた。
「…なぁ、勇者よ。一つ頼みがある」
「なんだ?」
「勇者の力で魔族たちを守ってはもらえまいか?そうすれば、妾のことは好きにしていい」
彼女のその言葉に、勇者と呼ばれた男は目を見開いた。
「なっ…!?だが、それは……!」
「頼む。そなたしか頼れる相手がいないのだ」
「し、しかし…」
「魔王である妾を討伐した実績があれば、ある程度の発言権は得られるのだろう?そなたの国でそのような話が上がっていることは掴んでいる。どうか、そなたの力で魔族たちを救ってほしい」
そう言う彼女の表情は、悲痛に満ちた何もかも諦めたような表情だった。
彼女についてきていた者たちはもういない。
人間たちに狩られたか、逃げ出したか…
勇者が一人で玉座の間に来れている時点で、お察しというやつだ。
「妾はもう疲れたのだ。人間たちとの争いは終わることがない。こちらが人間たちを滅ぼそうとすればより一層争いは激しくなり、お互いに壊滅的な被害が出るだろう。それは妾は望んではおらん」
「…お前が一人いれば、人間なんて根絶やしにできるのではないか?何故それをしない」
「確かに、やろうと思えば出来るだろうが、その間も人間たちは抵抗する。妾は一人しかおらぬゆえ、守りながら戦うことは不可能だ。それに、妾だって殺しがしたい訳じゃない。もしそうなら、今頃そなたは消し炭ぞ?」
カラカラと乾いた笑みを浮かべる彼女。
希望も無い、無理やり作った笑顔ですら魅入らそうになるほどの色香を漂わせている。
思わず、勇者と呼ばれた男は目を伏せた。