約束
バチバチッ!ドゴォッ!
「…くっ!出力が上がらない…!」
あの男が扉から出ていってからもう随分と経つ。
あの男を追いかけるように雷を放つが、狙いが定まらず上手くいかない。
仕方ないので雷を全方位に放つが、これも出力が全然上がらず、少しずつしか周りを壊せない。
それならばと普通に追いかけようとしたら、それすら足に上手く力が入らず、走り出すこともできない。
これではあの男に逃げ切られてしまう。
「くぅっ!メアリー!一体どうしたというのだ!しっかりしろ!」
それもこれも、内側にいるメアリーの妨害のせいだ。
あの男に何かしようとすると、メアリーが内側から妨害を仕掛けてくる。
魔力を乱したり、身体の主導権を一部奪い返してきたりしてきて、にっちもさっちもいかない。
「止めてください!あの人に手を出さないで!」
「ぐうっ!メアリー…!」
何度問いかけても同じ答えしか返ってこない。
おそらく何らかの薬を盛られているのだろうが、この感じだと惚れ薬でも盛られたか。
「薬ごときに屈しおって…!」
今はそんなことに嘆いていても仕方ない。
とにかくこの状況を何とかしないと。
「さらに魔力の出力を上げようとしてみるか…?いや、それだとただメアリーとの押し合いになるだけ……ん?」
そのとき、遠くから二つの魔力がこちらに近寄ってきているのが分かった。
しかもこの二つは……
「懐かしい魔力……まさかあの二人か?」
妾がこの世界に降りてきてから初めて心を許した相手。
あのとき、心が荒みきっていた妾を、暖かい心で寄り添ってくれた二人。
「まさか……妾の魔力に反応して来てくれたのか?」
死んで生まれ変わってから、妾は何度か魔力を解放している。
もしかしたら、その魔力を察知して向こうから会いに来てくれたのかもしれない。
「ならば、こんなことをしている場合ではないな。あの二人が来ているのに暴れるわけにはいかぬし…」
心を落ち着かせる。
全方位に放っていた雷もおさめる。
あの男に何かしようとしなければ、メアリーも大人しくなるはず。
解放していた魔力を少しずつ抑える。
……よし、これでいつでも大丈夫だ。
あの男は後から血祭りに上げればいい。
今は、懐かしい友との逢瀬を楽しむとしよう。