レオン殿下は焦る 4
「__報告します!たった今王国近衛騎士団に潜入させている者が到着しました!」
そのとき、王城の方から影が近づいてくる。
伝令用の早馬に乗った、俺の側近の一人だ。
普段は王国近衛騎士団にスパイとして潜入してもらっている。
兄上が王国近衛騎士団を使って何か悪巧みをしようとした際、すぐに察知するためである。
他にも何かと兄上は騎士団を使うことが多いので、兄上の動向を知る上ですごく役に立ってもらっている。
ただ、兄上は最近あまり騎士団を使うことが少なくなってきていたのだが……
新しい側近でもできたのか…?
「報告したいのですが、その方たちは……」
伝令を伝えに来た側近が、問題なく俺たちと合流する。
そのまま報告しようとしたのだろうが、ヴィサス嬢とイーリス嬢を見て報告を躊躇っているようだ。
おそらく、内容が外に公開できるようなものではないのだろう。
「気にするな。この者たちは関係者だ。何かあればこの俺が全責任を持つ」
「は、はい!承知しました!」
俺の言葉に、側近は報告を始めた。
「報告します!この度の騒動は第一王子、セルパン殿下の仕業であることが判明!メアリー嬢にインキュバスの禁薬を使った模様です!」
「なにっ!?」
それは禁忌のものの中でも特にヤバいもの。
それさえあれば、一国すら簡単に滅ぼす事が出来るという禁断の薬だ。
使用するのはもちろん、所持することすら禁じられ、現存するものは全て破棄されたはずの薬を一体どうやって手に入れたというのか。
「それにより、メアリー嬢の中の魔王が覚醒!理由は不明ですが、そのまま魔王が王城を破壊し始めたようです!」
これは推測だが、メアリー嬢に薬を盛ったのが癇に障ったのだろう。
そして、魔王であるルナには薬は効かなかった。
おそらく、インキュバスの禁薬は肉体ではなく精神に影響を及ぼす薬だったのだろう。
魔王だから効かなかったのか、それとも他に理由があるか分からないが、精神に害をなす系はルナには効かないと見て間違いなさそうだ。
「それでなんですが…」
「なんだ。どうした?」
「セルパン殿下が魔王から逃げる際、王国近衛騎士団に例の二匹を魔王にぶつけて時間稼ぎをするように指示を出した模様です…!」
「な、なにぃっ!!」
例の二匹といえば、この前報告にあった兄上が奴隷商人から買ったというあの二匹のことか…?
だとするなら、ルナに絶対バレてはいけない秘密がバレてしまう…!
マズイマズイマズイマズイ!!
「さらに速度を上げるぞ!手遅れになる前に!」
俺は乗っている馬を操り、加速させる。
「レオン殿下!どうしたんですか!?」
後ろからヴィサス嬢の声が聞こえる。
しかし今はそんなことを気にしている余裕はない。
何が何でもあの二匹とルナが出会う前に止めなければ…全てが手遅れになってしまう…!