レオン殿下は焦る 3
「私も先ほど知りました。メアがレオン殿下に謝りたいと言っていましたよ」
ヴィサス嬢からもフォローが入る。
なんでも、ここ最近は俺へお金を返すためにメアリー嬢は冒険者組合に入り、そこで依頼をこなしてお金を稼いでいたそうだ。
そして、ある依頼をこなしている最中に急に倒したはずのキングゴブリンが現れ、それを撃退する途中でやむを得ずバレてしまったのだとか。
キングゴブリンの件はすでに知っている。
これでもこの国の王子だ。
国の内情は常に把握するようにしている。
その中でもキングゴブリンの件は一際目立つ報告だった。
報告を聞いている途中、最悪王国軍を出動させなければいけないかと思っていたら、なんとメアリー嬢が解決してしまったというではないか。
ただ、解決の仕方がメアリー嬢を差し出したみたいな感じがして、王族としては情けないばかりである。
ただ、そのおかげでゴブリンのことで今後悩まなくて良くなったのは朗報だ。
代わりにゴブリン関連の材料が無くなるのは手痛いが、それもゴブリンからの被害が無くなると考えれば安い。
国民の命に勝るものは何もないからだ。
その分、メアリー嬢には支援を惜しまないようにと指令は出した。
その矢先にこれだ。
ゴブリン問題が解決したその日に、ルナが王城で暴れている。
これは絶対、裏で誰かが糸を引いているはず。
ルナが暴れているだけでも危険なのに、それを誘発させたやつがいるとなると危険度は計り知れない。
少なくとも、ルナを暴れさせたやつはメアリー嬢に魔王ルナが入っていることを知っている。
だから、この二人をできるだけ連れて行きたくないのだが……
「……聖女の件はわかった。しかしヴィサス嬢は連れていけない」
「何故です!?」
「あそこは今ルナが暴れている。それだけでなく、それを裏で操っているやつまでいる。聡明な君なら理解できるだろう?」
「そ、それは…!」
「レオン殿下!」
再び、あの訴えかけてくる瞳でこちらを見てくるイーリス嬢。
「ヴィサス様はあらゆる魔法が使えます!レオン殿下が言われた通り、聡明な人なので機転も利きますし、きっとお役に立てるはずです!その上、今の状況を見て下さい!」
言われるがまま、今のヴィサス嬢とイーリス嬢を見る。
高速で駆ける馬を操るヴィサス嬢にしがみついているイーリス嬢の姿がそこにあった。
「この通り、アタシは馬に乗れません。ヴィサス様がいないとお城にたどり着くこともできないんです」
真剣な表情で俺を説得しながら、必死にヴィサス嬢にしがみつくイーリス嬢。
そのギャップに、思わず笑ってしまった。
「ハハッ、確かにそのようだな。分かった。二人共俺についてこい。ただし、しっかり働いてもらうからな」
「っ!はい!ありがとうございます!」
ヴィサス嬢は一瞬驚いた顔をすると、すぐに真剣な表情になって感謝の言葉を述べた。
「良かったね〜?メアリー様のところに行けて。アタシに感謝しなよ〜?」
「……お礼は言いませんよ。私がいないと馬に乗れないのは本当のことなんですから。等価交換です」
「はいはい。素直じゃないんだから」
「そんなんじゃありません!」
……俺が知らない間にずいぶん仲良くなったみたいだ。