セルパン殿下は失敗する
ドゴォッ!ドガァッ!
「クソッ!なんでこんなことに…っ!」
僕の名前はセルパン。
セルパン・ソル・シャーユ。
かつて魔王を倒したとされる勇者が起こした国、シャーユ王国の第一王子だ。
今、僕はとにかく走っている。
辺りの壁はヒビが入り、さらにどこか分からないが何かが破壊され、崩落する音が聞こえる。
「魔王に薬が効かないのは誤算だった…まさかあの薬は肉体にではなく精神に作用するものだったのか……っ!」
ドゴォッ!
考え事をしている間に、またどこかが破壊された。
いつ自分がいる場所も崩落に巻き込まれるか分かったものではない。
今は考えるのは止めてとにかく破壊の中心から離れなければ。
「クソッ!化物めっ…!」
シャーユ王国が建国されてから今までずっと、この国の象徴として建っていた長年の歴史を誇る王城が崩れていく。
その姿を、走りながら横目で見る。
そのあまりの惨状に思わず歯噛みした。
「__セルパン殿下!これは一体…!」
そのとき、前方から王国近衛騎士団の団長が姿を現した。
全身が銀色のきらびやかなアーマーで覆われており、関節部分には金色の耐刃性の布が惜しげもなく使われている。
頭にかぶった兜には金色のシャーユ王国の紋章が刻まれていて、誰もが一目でこの者が王族直属の近衛騎士団であることが分かるようになっている。
腰には柄と鞘にあらゆる装飾が施された、これまた華やかな剣が携えられている。
アーマーの右胸辺りには赤色の薔薇が彫られており、この人物が団長であることを示している。
見た目といい武装といい、とても実用的とはいえない、正に国の威光を示すためだけに存在しているような風貌だ。
普段は王城の警備や、王族の身辺警護などを任されており、実戦経験などはほとんどなく、見た目だけのお飾り騎士団と影で言われているほどで、その実力は結成されたシャーユ王国建国時に比べたら見る影もないだろう。
今となっては、代々王族に媚びて甘い汁を吸うだけの利権と金にしか目がない集団に成り下がっている。
ちなみに、そんな王国近衛騎士団のことをよく思っていないのか、レオンだけは近衛騎士団を利用していない。
レオンは、自身の目で見て選んだ者だけを近くにおいておく。
そのため、今の王国近衛騎士団は実質セルパン、及び王専用と化している。