緑鬼の王、再び 57
「元気出してくださいよ、メアリー様」
「そうです。元気出しましょう?メア」
「……はぁ…」
私は今、冒険者組合の前にいた。
あれから何事もなく冒険者組合に帰り着き、そこで依頼達成の手続きをしたのだ。
そのとき報酬を貰ったのだが、金額がそこそこ大きかったため、冒険者組合にある金融機関を利用したらどうかと勧められた。
なんでも、冒険者組合の中にある受付に冒険者証を持って手続きすれば、お金を自由に引き出したり預けたり出来るシステムのようだ。
お金の残高は冒険者証に記録され、残高が確認したかったら冒険者証の顔写真の部分を二回連続で押すと、空中に表示されるようになっている。
冒険者組合からのメッセージを見るときと同じ原理らしい。
とりあえず、今回の報酬は全額預けた。
この後、寮に置いてある前の冒険者組合での依頼の報酬も預けに来ようと思う。
これで、大金を持ち歩いたり寮に隠したりしなくて済むようになった。
トボトボと寮への帰り道をたどる。
「ほ、ほら!キングゴブリンの件で報酬いっぱい追加してもらったじゃないですか!アタシの分もお渡ししますし!」
確かに、キングゴブリンの分だけ多く報酬は貰えたが、それとこれとは別の話だ。
上手くやれていれば、もっと多く貰えていたはずなのに…
そう思うと、より憂鬱になる。
というか、何故私に自分のお金を渡そうとするんです?
「……いや、別に自分の分は私に渡さなくてもいいんですよ?」
そう言うと、イーリスは首をブンブンと左右に振って私に近寄ってきた。
お互いの身体が触れそうなほどに近づいてきて、私は一歩、二歩と後ずさる。
「アタシが渡したいんです!アタシのせいで出来た借金なんですから、アタシにも返させてください!」
「ええ……」
イーリスのあまりの勢いに押され、思わずたじろぐ。
というか顔が近い。
「私もメアの力になりたいです。私はお金に困っている訳ではありませんし、私の分も受け取ってください」
何故かヴィサス様まで私に迫ってくる。
だから顔近いって。
「え、いやヴィーは関係ないじゃないですか。ちゃんと自分の報酬は自分で使わないと」
「それを言うなら、私がどう使おうが自由な訳ですよね?」
「えっと……」
「そうですよね?」
さらに迫るヴィサス様。
もはや顔がくっつきそうなんですけど。
「分かった分かりました!受け取りますから離れてください!」
二人のものすごく熱の入った顔に観念して受け取ることを認めてしまう。
私は、二人を両手で押して距離をあけた。
「よーっし!女に二言はありませんよね?メアリー様!」
「言質は取りましたからね、メア。後で必ず受け取ってもらいますよ♪」
満面の笑みの二人。
はぁ、仕方ありません。
お金が集まるのはいいことですし、お金が貯まったら二人にはちゃんとお返しするとしましょう。