緑鬼の王、再び 56
「我はもう行くぞ。我との約束、忘れるんじゃないぞ?」
そのとき、プレシさんの後ろからキングゴブリンが話しかけてくる。
交渉も終わり、ケイオス大森林に向かうようだ。
私は振り向くと、静かに頷く。
それを見て、キングゴブリンも頷いた。
「よし、それならこれを持っておけ。お前もだ」
キングゴブリンは虚空に右手を突き出すと、手首から先が虚空の中に飲み込まれるようにして消える。
そして、そこから右手を引き抜くとそこには小さなメダルを二つ握っていた。
私とレセプさんにそれぞれ一つずつ投げて渡す。
渡されたメダルを見てみると、何やら文字が書いてある。
……G?
「そのメダルをゴブリンたちに見せれば、我のところに案内するように言っておく。お前は我と戦う時に、お前は我らに用事がある時に使うといい」
私とプレシさん、それぞれに指差してそう言う。
まさか、キングゴブリンの気遣いがここまでのものとは。
私たち人間に対して、限りなく気を使ってくれているのがなんとなく分かる。
他の魔物たちでは絶対にこうはならない。
人語を話せるくらい知能が高い魔物は、基本的に人間を見下している。
まず、対等に交渉することそのものが不可能に近い。
これは、戦闘狂なことを除けば、キングゴブリンはだいぶ…いや、相当良い奴に違いない。
プレシさんも、キングゴブリンの気遣いに驚いて、渡されたメダルを見ながら目を白黒させていた。
それと、特に意味はないだろうが、メダルに書かれたGの文字はおそらくゴブリンの頭文字だろう。
「さて、我の用は終わった。それでは行くぞ」
キングゴブリンは私たちに背を向けると、そのまま去っていく。
「……さて、私たちも帰りましょうか」
キングゴブリンが去ったのに合わせて、私も皆に帰ることを促す。
皆は頷くと、思い思いに帰りだした。
「…メアリーさん、ちょっといいですか?歩きながらで大丈夫なので」
「はい、どうしましたか?」
そのとき、レセプさんから呼び止められる。
歩きながらでいいと言うので歩きながら返事をする。
「あのですね、今回の依頼はこれで達成となるのでこの後報酬を計算してメアリーさんにお支払いすることになるのですが……」
あ、そういえばそうだった。
これは冒険者組合からの依頼を受けてゴブリンオーガを退治しに来たんだった。
結構ゴブリンオーガは倒したはずだから、そこそこ報酬は貰えるはず。
私はワクワクしてレセプさんの言葉の続きを待つ。
しかし、次にレセプさんが言った言葉は、私の期待を大いに裏切るものだった。
「いっぱいゴブリンオーガを倒して頂いたのは嬉しいのですが……遠くに吹き飛ばしすぎて何匹倒したのか分からず……申し訳ないのですが、今数えられる分だけだと、五匹分だけです…」
「え…本当に?」
「はい、本当です」
「………………うぅっ…」
私は初めて、目から雫が落ちるのを感じた。