緑鬼の王、再び 53
「え?何のことです?魔王が私の中になんて__」
「雰囲気も話し方も違いましたし、魔力の波長も似てはいますが少し違いますね。それに目も黒くなっていましたし……あれは確かにアタシが知っている魔王の姿です」
……バレていますね。
というか、イーリスは魔王の姿を知っているみたいな感じですね…
そういえば、元々私に絡んできたときも、私が魔王の転生者だとか言ってましたし、いろいろ怪しいところが多いんですよね。
とにかく、完全にバレているみたいですし、隠しても無駄なようです。
それなら__
私はゆっくりと右手を上げる。
「_あ、別にまた決闘を申し込もうとか思ってる訳じゃないですよ!?メアリー様には返しきれないほどの恩がありますし、もう戦いたいとは思っていません!」
おや、そうですか?
もう隠しきれないなら、物理的に忘れてもらおうと思ったのですが…
具体的にはこう、頭をポカッとするような感じで__
何かを察したのか、イーリスは慌てて自分に戦う意思はないと伝えてくる。
面倒なことになりそうなら記憶を消すのもやぶさかではなかったのだが……
「大丈夫ですから!戦おうとか思ってませんから!ね?あの時のことは反省しています!だから勘弁して下さい…!」
……そこまで言うなら仕方ないですね。
無理に記憶を消すのも悪いですし、敵対する意思がないのなら、まあいいでしょう。
私は右手を下ろした。
「……ふぅ、助かった………」
何やら安心しきった様子のイーリス。
心配しなくても、痛みを感じる前に終わらせるつもりだったので不安にならなくてもよかったのに。
「……それで、一体何が言いたいんです?急に私の中に魔王がいるとか…敵対行為と勘違いされてもおかしくないと思いますが?」
「いや、あのですね……アタシは何があってもメアリー様の味方ですって言いたかっただけで……魔王がもう悪い人じゃないのは分かりましたし…ほら、あの時アタシに聖女について説教してくれたのも魔王だったんでしょう?」
「…まあ、そうですね…」
あの時と言えば決闘のときでしょう。
話し方といい雰囲気といい、目の色も見られていたのでしょうね。
思い返せば、イーリスにバレる要素はいくらでもあったようだ。
そして、イーリスの話は続く。
「そして、メアリー様に助けて頂いた。アタシ、こう見えてもすっごく感謝しているんですよ?それを伝えたくて。メアリー様の中に魔王がいたとしても関係ないって言いたかったんです。ホントは、少し前から薄々気づいていたんですからね?」
「そ、そうですか…」
「だから、これから何があってもアタシはメアリー様の味方ですから、何かあったら思う存分頼ってくださいね!」
満面の笑みのイーリス。
伝えたいことを全部伝えられて満足したようだ。
逆に私は困惑している。
え、つまり聖女だけど魔王を討伐しようとはしないってことですか?
それでいいんですか?
まあ、いいって言うならいいんでしょうけど…
というか、この娘を頼って何か変わるんでしょうか?
むしろ悪化したりしません?
そっちのほうが心配なんですけど。