緑鬼の王、再び 51
「__それは困ります。貴方たちに制御できない個体がいるように、私たちにも言うことを聞いてくれない連中がいるんです」
例えば、盗賊とか闇商人とか。
ゴブリンの皮とか爪、牙などは加工しやすく、結構取引されている。
もし、ゴブリンとの私闘を禁じれば、それらを取ることは基本的に出来なくなるだろう。
まあ、ゴブリンたちからの被害がなくなると思えば安いものではあるが、その分、今出回っているものはかなり高額になるに違いない。
そして、そこに目をつける輩は必ずいる。
そういう奴のせいで戦争になどなっていてはたまったものではない。
「…そうか、お前たちも同じか。ならばこうしよう。おい、そこのお前。地図は持っているか?」
「え?はい、ありますけど……」
「そこに我らの縄張りを書け。その中に入ってきた者は問答無用で消す。これでどうだ?」
「縄張り、ですか…?」
「そうだ。今はあらゆる場所に散っているが、それをある程度同じ場所に集める。その方が統制しやすいしな」
なるほど。
一カ所に集めることで統制しやすくするだけでなく、縄張りという分かりやすい範囲を示すことでお互いの不可侵領域を明確にする。
そうすることで、お互いの不用意な接触による事故を避けられるという訳だ。
「えっと、縄張りの件は分かったのですが、その縄張りに入った時に【消す】というのは……」
「文字通りの意味だ。男は食料にし、女は苗床にする。どちらにせよ、生きて帰れることはないだろう」
「お、おうふ……そうですか…」
キングゴブリンの返答に、プレシさんが引きつった表情をする。
返答の内容がプレシさんにとってすごく惨酷なことに感じたのだろう。
しかし、そんなことは魔物には関係ない。
キングゴブリンからすれば、むしろ縄張りを示してやっているんだからこれくらい当然だ、と思っていることだろう。
「我らは……そうだな、この辺りを縄張りにしようか」
キングゴブリンは地図のある場所を指し示す。
「……ケイオス大森林ですか」
【ケイオス大森林】とは、余りにも広すぎてまだ未開の場所も数多く存在する森林地帯のことである。
あらゆる国に隣接しているので、流通のために一部は私たち人間が使う道として整備して通りやすくしている。
しかし、整備されてない場所を通れば、そこは途端に魔物の巣と化す。
低ランクから高ランクまでのあらゆる魔物がひしめきあっており、混沌としている危険地帯だ。
その分未開の地も多く、まだ発見されていない新種もあれば、その中にはかつて失われたとされる古代の技術も存在しているとされていて、トレジャーハンターが幾度となく一攫千金を目指して足を踏み入れては、帰ってこないこともしばしばあるという。




