緑鬼の王、再び 48
「よいではないか。そなたは強者と戦いたい。しかも体術だけならそなた以上の者と定期的に戦えるのだぞ?それとも、そなたは負けっぱなしでいいのか?」
「う…ううむ……」
妾の言葉にさすがにプライドを刺激されたのか、キングゴブリンは腕を組んで考え込む。
こっちは押せば何とかなりそうだ。
「メアリーも。人間たちはゴブリンの被害にいつも苦労しているのだろう?キングゴブリンの号令があれば、大抵のゴブリンはいうことを聞くぞ?そうすれば、人間に襲いかかることも限りなく減るはずだ。そのために定期的に試合をしてやるのは、人間たちにとっても悪いことではないだろう?」
「え?まあ…でも……え?」
メアリーも、妾の言っている意味はわかるのだろう。
しかし、それでキングゴブリンと戦うことが上手く結びつかず、頭の中が大混乱しているようだ。
「どうだ?お互いに悪い話ではないと思うが?」
「まあ、そうだな……負けっぱなしというのも確かに癪に障る……」
「メアリーも、どうだ?ゴブリンたちから人間を守るのにこれ以上手っ取り早いことはないぞ?」
「まあ…そうですね……」
「よし!決まりだな!一方的に力を貰うのは悪いと思っておったのだ。これで心置きなく力を貰っていける」
ススス……と内側に潜る。
今日は気分がいい。
あの娘の力が一つ回収できたから。
このいい気分のまま、今日は眠りたいものだ。
もう一人の妾と入れ替わる。
「__ふぅ、今日は何度も入れ替わって疲れますね」
目の色も白色に戻る。
表面にいる気配が全くしない。
ルナは完全に内側に潜ったようだ。
「さて、これからどうしましょうか…」
キングゴブリンのことも皆に説明しないといけないのだが、どうやって説明したものか。
……いっそ正直に交渉したとでも言うか?
「…おい、お前」
「ん?何ですか?」
そのとき、キングゴブリンが少し不機嫌そうに話しかけてきた。
もう戦闘する気はないのか、殺気は感じられない。
私も、最低限の警戒だけ残してキングゴブリンに向き直る。
「…何故、あの技をすぐに使わなかった」
「あの技…ですか?」
「そうだ。我を最後に貫いた、あの技だ。あの技をさっさと使えばよかったのに、何故すぐに使わなかった?」
あの技とは、キングゴブリンを最後に倒した【日食】のことだろう。
何故使わなかった?
そんなの簡単なことだ。
「使わなかったんじゃありません。使えなかったんです」
「……どういうことだ?」
「あの技は威力だけはすごいのですが、その分デメリットがものすごいのです。放てば放っただけ技の反動が私に返ってきます。今の私の身体ではとても耐えきれません」
当たれば、その場所はまるで太陽が食われるかのように削り取られる。
ゆえに【日食】。
本来なら、一度放てばその日一日は動けなくなるほどに反動が強烈な技だ。
今はルナに治してもらっているからこうやって動けているが、今の私には一日一発が限度。
それに射程もものすごく短い。
相手が余程慌てるなどして隙をさらしてくれないと、当てるどころではないのだ。
気軽に撃てるものじゃないため、技としてはむしろ欠陥品と言わざるを得ない。




