緑鬼の王、再び 45
「……ふぅ…ヴィー」
「は、はい…」
恐る恐る私の呼びかけに応えるヴィサス様。
それもそのはず。
さっきまでの私とルナのやり取りを見ていたのだから。
ゆっくり私の方に近寄るヴィサス様。
「ヴィー。お願いがあるのですが、この二人をお願いしてもいいですか?」
「え?ええ。大丈夫ですけど、メアは……」
「私は……」
視線をある方向に向ける。
ヴィサス様もそれに合わせて私と同じ方向を向いた。
そこには、キングゴブリンの姿があった。
「私はあっちを相手しなければいけません。後はお願いします」
「あ…メア………」
私がキングゴブリンに向かって歩き出すと、ヴィサス様は引き止めるように私の背中に向かって手を伸ばす。
「誰かが二人のことを見ていなければいけません。だからヴィー、二人のことをお願いしたいんです。お願いしても、いいですか?」
「……はい、わかりました。でもこれだけは約束してください。必ず帰ってくるって」
ヴィサス様の強く刺すような瞳に、私は振り返る。
あまりの真剣な表情に、これは適当に返してはいけない、そう思った。
私も真剣な表情でヴィサスの瞳に目を合わせる。
「……わかりました、必ず勝利してきます。これでは足りませんか?」
「…………はい、それで十分です。どうか、お気をつけて」
ヴィサス様は私に向かって伸ばしていた手を戻すと、覚悟を決めた表情で私を送り出してくれた。
私はそんなヴィサス様を確認すると、二人のことをヴィサス様に任せ、キングゴブリンの方に向かった。
「__お待たせしました。続きをしましょうか」
「…もういいのか?魔王の力を借りなくて」
「余計なお世話です。貴方は私の力だけで倒します」
「そうか。お前ごときにそれが出来るのか?すでにそんなにボロボロの身体のくせに?」
「うるさいです。さっさと構えなさい」
私は戦闘態勢をとる。
泣いても笑ってもこれが最後の戦いだ。
バリスタも壊され、二人が気絶している今、もう私しかこいつを倒せる者はいない。
構えた拳に力がこもる。
「__ハハハ!いいだろう!もう隠し事は無しだ!全力をもってお前を叩き潰そう!」
両手を広げて高笑いするキングゴブリン。
そして、キングゴブリンも戦闘態勢をとった。
また静寂が辺りを支配する。
「………はっ!」
今回は私から仕掛けた。
単純な、鳩尾に向かった右ストレート。
「…ふっ」
それを、キングゴブリンは左足を軸に回転しながら避け、そのまま私に向かって裏拳を放つ。
私は、裏拳に手をついてジャンプすることで避ける。
そのまま距離を取る私。
すると、私の左側に魔力の揺らぎを感じた。
嫌な予感がして、私はすぐにジャンプする。
「__二発目にして、もう見切ったか」
私がジャンプした直後、魔力の揺らぎから拳が突き出してきた。
よく見ると、魔力の揺らぎから先には何も無い。
そして、キングゴブリンの方を見ると、右手が途中で無くなっている。
その右手が無くなっているところにも魔力の揺らぎがあるようだ。
キングゴブリンは腕を引き抜く動作をする。
すると、魔力の揺らぎから突き出ていた拳は引っ込み、元のキングゴブリンの右手が出現した。
やはりこれは__
「空間を繋げていますね……どうやっているのかは知りませんが…」
魔力を使い、空間と空間を繋げ、そこから遠隔に攻撃しているようだ。
「…これを避けたのはお前が初めてだ。部下に試したときには避ける素振りすらなかったのに……一体どうやっているんだ?」
一体どうやって?
そんなの、魔力の揺らぎが見えているから反応しているだけですが。
もしかして、私以外には見えないんですか?
使ってる本人さえも?
『そうだ、それは妾も不思議に思っていた。妾もあの力は予兆が全くつかめん。なのにメアリーはまるで見えているかのように動いている。一体何が見えている?』
内側からルナも不思議そうな声を響かせる。
あれはルナにさえ見えないものだったのですか?
つまり、本当に私だけが見えている……
……まあとにかく、魔力の揺らぎから空間を繋げてくるのはわかりました。
考えても私だけが見える理由なんてわかりませんし、それはこの後じっくり調べるとしましょう。