緑鬼の王、再び 42
「ずいぶんと余裕そうだな。ならば、もう少し速度を上げるぞ__」
その瞬間、キングゴブリンの姿がかき消えた。
「っ!ぐっ!」
私は反射で頭を下げ、両腕をクロスさせて体の前に構える。
すると、数瞬もしない内にその構えた両腕にものすごく重い衝撃が伝わる。
それが殴られたことだと気づいた頃には、その重みに耐えられず思いきりふっ飛ばされてしまった。
地面の上を何度も跳ねるようにして転がる。
「どうした?さっさと本気を出さないか。でなければ、お前もあそこのやつらも皆死ぬだけだぞ?」
「くっ…!うぅ…っ!」
傷付いた身体を何とか起こす。
左腕の感覚がほとんどない。
今の一撃で持っていかれたらしい。
私の読みが甘かった。
かつて私の全力と渡り合ったのだから、まだ相手も全力を出していないと分かるはずなのに……
身体はボロボロ。
左腕は満足に動かせない。
これではもう……
「メア!お待たせしました!」
そのとき、ついに待っていた声が聞こえる。
「ヴィー!」
「メア!いつでもいけます!射線上から退避してください!」
ヴィサス様の方に顔を向けると、そこには巨大な弓矢のような、いわゆるバリスタと呼ばれるものがあった。
そのバリスタに、三人が手をかざしている。
ヴィサス様とプレシさんにレセプさんだ。
バリスタにはすでに巨大な矢が装填されており、いつでも発射できるようだ。
「なるほど。それがお前たちの切り札という訳か……」
それを、キングゴブリンは余裕の表情で見ている。
避けようという様子も一切ない。
完全に舐めきっている……今がチャンスだ。
キングゴブリンがバリスタの方に注意を向けている間に、私はバリスタの射線上から移動する。
「…こんなもの、避けるまでもない。何故なら、発射させなければ何の意味もないからだ」
その瞬間、バリスタの後ろの地面から巨大ゴーレムが姿を現す。
「なっ!」
「いつの間に!」
ヴィサス様たちは、後ろを見ると自身を見下ろす巨大ゴーレムの存在に驚きの声を上げる。
しかし、三人はその場から逃げようとしない。
それもそのはず。
この合体魔法はとても緻密な魔力コントロールを要求される高度な魔法なので、ここで制御を放棄すればその瞬間に融合させている魔力が暴走し、大爆発してしまう。
逃げることはそもそもできないのだ。
「いつの間に?そんなの、我が呪文を唱えたとき以外ないだろう?」
「っ!そんな、まさか!?」
私が蹴りで一体壊していたとき、実はこっそりもう一体作っていたのだ。
このキングゴブリン、巨大ゴーレムを作る場所もある程度離れたところで出来るらしい。
そして、地面の中に潜ませ、じっくりチャンスをうかがっていたのだ。
こうやって私たちが希望に満ちたその瞬間に打ち砕き、絶望に落とすために。
「さあ、やれ!ガイア・ゴーレム!」
キングゴブリンの声に合わせて巨大ゴーレムが右手を頭上に大きく振りかぶると、バリスタを維持するのに動けないヴィサス様たちに向かって、勢いよく右手を振り下ろした。