緑鬼の王、再び 20
「いやぁ、準備に手間取ってしまってね。面目ない」
イケてるオジさん、略してイケオジは申し訳なさを誤魔化すように笑いながら頭の後ろをかく。
「まあ、遅れた理由はこの人が急にトイレに籠もったことが原因ですけどね」
「あ!それは言わない約束だろう!」
レセプさんが言うには、このイケオジは私たちが応接室に案内されていた間、トイレにずっと引き籠もっていたらしい。
「昨日食べた肉、生焼けだったかな?」
「それよりも偏食を治して下さい。ゴブリンの肉なんて普通食べませんよ」
「えー?そうー?」
なんとこのイケオジ、かなりの偏食家で魔物の肉を好んで食べているようだ。
特にゴブリンの肉が好みのようでよく食べているようだが、たまにバジリスクなども食べている模様。
あれ、猛毒だった気がするけど。
「おっとすまないすまない。こちらだけ盛り上がってしまって」
また申し訳なさそうに頭の後ろをかくイケオジ。
「いえ、お構いなく。イケオジ様」
「……イケオジ?」
「わああっ!メアリー様その話は!」
「わっぷ……」
私がイケオジの名前を出すと、イーリスが慌てて私の口を塞ぐ。
あれ?イケオジって恥ずかしいことだったの?
「メアリー様!その話は最近私がハマってる小説に出てくる単語なだけで、決して常用して使う言葉ではないんですよ!」
私に耳打ちするイーリス。
なるほど。
確か最近イーリスは夜な夜な恋愛小説を読むのにハマっている様子だった。
そこではイーリスが言うイケオジと、可愛らしい男性がくんずほぐれつ夜の運動会を繰り広げているらしい。
夜の運動会とやらは何かわからないが、とにかくそれは架空の話であって、現実では恥ずかしいから使わないとのこと。
あれだけ私に熱く語っていたのに。
「確かに目の前にいる人はアタシが読んでいる小説に出てくるイケオジそっくりだけど、それを言ったらアタシがイヤらしい本読んでるのがバレちゃう……!」
「…なんて?」
何やらイーリスがブツブツ言っているが、声が小さくてよく聞き取れなかった。




