信頼
「…なぁ、勇者よ。妾はこの世界に不要か?」
ここには何も無かった。
いや、厳密に言えば何も無い訳では無い。
ただ、この部屋には人が住んでいる痕跡のようなものが何一つなかった。
入口から左右を見渡せるほどに広く、部屋の中心から左右に柱が等間隔で立ち並ぶ。
その一番奥になんの飾り気もない石で出来た椅子が一つ。
そこは、形だけ見ればまるで【玉座の間】のようであった。
「妾は、生きていては…生まれてきてはいけない存在だったと思うか?」
その座り心地の悪そうな椅子に座る者がいた。
その者は、正に絶世の美女であった。
少しの乱れも無く、綺麗に腰の高さに揃えられた漆黒の髪。
光すらも吸い込みそうなほどに混ざりけのない、宝石のような美しい漆黒の目。
そして、その中心には、何者であっても一度見たら魅入られそうなほど美しく透き通った藤紫の瞳。
谷間がハッキリ見えるほどに実った二つの双丘に、相反するようにキュッとくびれた腰回り。
さらに、その細い腰回りから見事な曲線を描いた、見る者全てを魅了しそうな豊満な臀部。
スラッとしたシミ一つ無い手足に、人間にはあり得ないほど左右対称に整った美貌。
それらを強調するかのように漆黒のマーメイドドレス身に纏ったその姿は、見る者が思わず邪な想いを抱いてしまうほどに美しく、そして妖艶な色香に満ちていた。
そんな彼女から、ある質問が投げかけられる。
「…そうかもな。お前がいるだけで人間は恐怖し、安心して生活できないんだと」
それに答える男が一人。
彼女から勇者と呼ばれる男。
彼女とは逆に綺麗な金髪で、短く切り揃えられている。
瞳も同じ金色で神々しく煌めき、さらに長年愛用してきたであろう薄汚れた鎧と剣に光が当たって鈍く光る様が、歴戦の猛者を彷彿とさせある意味美しく見えた。