第1話 勇者召喚
ある孤島の地下には古ぼけた遺跡がある。なんでも、女神に選ばれた聖女のみが入ることの許された神聖な地らしい。そんな遺跡の苔むした階段を松明片手に慎重に降りてきた女性の名はアルティア。聖女である。
「私が世界を救うんだ。」
と白い息と共に震えた声を出す。緊張した面持ちで地面の怪しく光る紫色の紋様に触れた。紋様は壁に続いているようだった。一見、ただの壁だが触れると通り抜けることができる。強烈な魔力を感じ、アルティアは思わず顔をしかめる。
「ここが召喚の間ね......」
アルティアが壁を抜けると地面に大きく魔法陣の書かれた小部屋があった。先ほどまでよりも重厚な石で造られたこの部屋に向かい、アルティアは声をかける。
「この世界を救う、勇者よ。」
彼女の声が空気を震わすたび、魔法陣の光が強まった。彼女は目を瞑り、より一層強く願った。
(どうか、この世界に一刻も早く平穏を・・・!!)
突然、部屋全体が眩い光に包まれた。閃光の中から、若い男が姿を現す。彼の髪は乱れ、瞳には異様な輝きが宿っていた。漆黒の髪が異世界の光の中で主張する。
「やぁ、僕をよんだのは君かい?」青年は軽やかな笑みを浮かべながら言った。その声には、期待と興奮が溢れていた。
「ええ。この世界には魔王とよばれる魔族の長がいます。」アルティアは微笑みながら昨晩考えてきたこの世界について説明する物語を話しているが、その内心には彼の様子に対する違和感があった。彼はまるでゲームの世界に入り込んだかのように、楽しんでいるように見えた。
「ああ、もうその話良いよ。」彼は突然走り出した。
「う~ん、魔王って言葉が出た時点で走り出すべきだったかも。まぁ、このあと全ミスなら記録狙えるし、続行だな!!」
「き、記録ってなんですか~。」アルティアは階段を勢いよく駆け上る彼に追いつくため走りながら叫ぶ。しかし、今は長いスカートをはいているため、一向に追いつけない。
「し、仕方ない。えいっ!!」ビリビリビリッ。彼女は勢いよくスカート裂いて走った。ついでに補助魔法をかける。
「確かに、記録はないのか。でもいつ追い抜かれるかわからんし、早いに越したことはない!」
とうっ!
彼は遺跡の入り口から思い切りジャンプした。アルティアからは太陽に重なる彼にどこか安心感を覚えていた。
「ここ島じゃねえか。どうしようか。」彼は周りを見渡していった。
「わ、私の魔法を使いましょう!多分これが一番早いと思います。」ぜぇぜぇ。どうにか追いついて提案する。
「おっけー。じゃあ自己紹介を移動中にしたいから、急いで!」と彼は片腕をぶんぶんとまわして急かす。アルティアは急いで魔法を展開する。
「無詠唱魔法が使えるなんて世界中でも10人いないくらいなんですよ。」
「ヘー。ソーナンダー。」
アルティアたちは空を飛びながら魔王らが不法占拠する地からもっとも離れた街、サイソウへ向かう。
「私はベガ・アルティア。聖女です。魔王を倒してもらいたくてあなたを勇者として召喚したのです。」
「そうか。僕は小浜援、タスケ・オバマと呼んでくれ。英語のほうが処理早いだろうし。」
「何の話?」
あそこがサイソウですよ。とアルティアが言った瞬間、タスケが飛び降りた。
ずどーーん!「ここがサイソウか。」
「な、なんだあいつ?!」「空から人が落ちてきたぞ!!」
サイソウの人々が驚いて声を上げる。するとぞろぞろと人があつまってきた。
が、タスケはそのすべてを無視し、ギルドへ走った。
私は空を飛んでいることも忘れ、口を大きく開けていた。そのせいで口がパッサパサ!