ようこそ、アリス -4つの時計と異世界人-
「女王様、“時計兎”です。“アリス”を連れてまいりました」
「まぁっ、本当!?」
扉の奥から可愛らしい声が聞こえた。
「はい。失礼しま……ごふっ」
シルバが手をかけた扉はひとりでに勢いよく開き、シルバの端正な顔に激突した。ちょっといい気分。私をいじめた罰じゃ。
「あら? 2人とも、どこー?」
開いた扉の向こう側では、声の印象を裏切らない容姿の少女がきょろきょろとあたりを見回していた。
「あのー……」
「あなたが私たちの“アリス”ね!?」
「え、あ、はい、そうみたいです」
とりあえず勢いに任せて答えてしまったが、いいのだろうか。
「ラーミア様っ! この城の扉はすべて外開きですから、内側からは開けずに座って待っていらして下さいといつも申し上げているはずです!」
「あ……ごめんなさい……“アリス”が来たって聞いてつい……」
ラーミア様――という名前らしい――はしゅんとしてしまっている。こんなに可愛いのに、シルバは誰に対してもドSらしい。
「で、気を取り直して……この子が“アリス”なのね?」
「はい、間違いありません」
「私はこの国の“女王”、ラーミア=トゥレン=スペードよ。あなたは?」
「香坂ありすです。私、この国のこととか“アリス”のこととか、何も知らないんですけれど……」
「え? シルバから説明されてないの?」
「はい」
「シルバ、“アリス”を案内するのがあなたの仕事じゃなくて?」
「説明しましたよ。とりあえず今日からこの国の“アリス”だから、と」
「説明になっていないじゃないの。仕方ないわね、私が説明するわ。ありす、中へ入って」
私は促されるまま部屋に入った。女王様の部屋というわりには華美な装飾は少なく、白と水色で統一されたおしゃれな部屋だ。1つ変わっているのは、部屋の中に川が流れていることくらいか。
「じゃあ、説明するわね。そこに座って」
*・*・*・*・*
まず、この世界は4つの国で構成されているの。
それぞれの国に大時計がひとつずつあって、その時計が止まれば国も止まってしまうわ。
珊瑚の時計が動かす、銀朱の国。
瑠璃の時計が動かす、群青の国。
琥珀の時計が動かす、刈安の国。
翡翠の時計が動かす、若竹の国。
若竹の国だけは新しい国だからか例外なんだけど、他の3つの国には大時計を止めずに動かすために他の世界の住人である“アリス”という存在が必要なの。
“アリス”がいなければ、いつか時計は止まる。そうして時が流れなくなってしまった国が、刈安の国よ。今はもう、刈安の国はそこにあってないようなもの。
でも、“アリス”がいるだけで時計の針は正しく回るわ。だからあなたは、この国にただいてくれるだけでいいの。それがあなたの役目よ。
それから、この国には“アリス”を助ける人物が何人かいて、その人たちを「役持ち」というの。例えば“時計兎”、“女王”……他にも“帽子屋”なんかもいるわね。
気をつけて欲しいのは、「役持ち」であってもありすに好意を持たない人もいるかもしれないって事かしら。大抵は“アリス”に協力的だけれど、今回は“グリフォン”あたりは警戒したほうがいいわ。
他になにか質問は?
え? 「今回」って何かって?
“アリス”は今までに何人もいたのよ。そして、“アリス”と同じだけの人数の「役持ち」がいたの。“アリス”が亡くなったとき、「役持ち」も全員代替わりするから。そして、今回は“アリス”があなた、他の「役持ち」はあなただけの“女王”であり、“時計兎”であり……。大体わかったかしら?
*・*・*・*・*
「なんか、責任重大ですね……」
「そうよ。今回は特にね」
「え?」
女王様が何故かここで神妙な面持ちになった。
「銀朱の国で、三年前に新しい“アリス”が来ることになったの。でも、それ以来その“アリス”が来ていないのよ」
「それ、まずくないですか?」
「そう、まずいの。だから、今銀朱の国では血眼になって“アリス”を探しているわ。実はね、“アリス”は国ごとに必要だけど、他所の国に行ってもそれなりの役割を果たせるのよ。要は、異世界の女の子ならいいってことなの」
アバウトだな、おい。
「だから、銀朱の国の人が捕まえに来るかもしれないから」
「……はい?」
「銀朱の国の人が、あなたを代わりに使おうとするかもしれないの。だから、気をつけてね? シルバ、あなたは一番近くにいることになるんだから、しっかり守ってあげて?」
シルバ、めちゃくちゃぶすっとしてるし。
私、もしかしてとんでもないことに巻き込まれた……?